2016年04月03日

種の感受性分布の技術マニュアルが公開

タイトルの通り、農薬の生態リスク評価のために活用を続けてきた
「種の感受性分布」という手法について、
技術マニュアルを策定しました。

これがどんなものかについては、
3月25日付けプレスリリースが分かりやすいです:
農薬の生態リスクを評価する解析手法の技術マニュアルを公開
http://www.niaes.affrc.go.jp/techdoc/press/160325/

マニュアル本体は
旧農業環境技術研究所のWEBサイトで公開されています。
http://www.niaes.affrc.go.jp/techdoc/ssd/
表紙.png

旧農業環境技術研究所は組織としては無くなりましたので、
そのうちに新組織におけるWEBサイトに移行することとなりますが、
しばらくは旧サイトも残っています。


目次は以下の通りです:
1. 種の感受性分布(SSD)とは
1.1. 現行の農薬の生態リスク管理制度と統計学的手法の必要性
1.2. 種の感受性分布
1.3. SSD の発展と議論の歴史
1.4. SSD を扱った公的文書、ガイダンス等
1.5. SSD の他国における活用事例

2. 生態毒性データの収集と評価
2.1. 既存の生態毒性データベース
2.2. 生態毒性データベースの活用
2.3. 農薬の生態毒性情報の収集と信頼性評価
2.4. 農業環境技術研究所の農薬生態毒性データベース

3. SSD 解析
3.1. 確率分布と SSD
3.2. SSD の解析方法
3.3. 主な水稲用農薬の SSD 解析結果
3.4. HC5 と水産保留基準
3.5. SSD とメソコスム試験の結果の比較
3.6. SSD を活用した生態リスク評価

4. SSD の活用 〜発展編〜
4.1. SSD のためのデータ数と生物種
4.2. データが少ない場合の SSD 推定方法
4.3. 複合影響の計算方法
4.4. SSD を用いた生態リスク評価の高度な活用
4.5. 野外生態系におけるSSD の検証
4.6. SSD を用いたリスク評価結果をより良く解釈するために

5. 参考文献

6. 付録
6.1. 略語集
6.2. SSD と生態リスクの計算ファイル
posted by shimana7 at 23:01| 研究 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

所属変更

2016年4月1日より、組織改編によりこれまで所属していた農業環境技術研究所は消滅し、
「国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構・農業環境変動研究センター・生物多様性研究領域・化学物質影響評価ユニット」
の所属となりました。
以前よりも所属名と研究内容の一致度は高まったかと思います。
この所属名の通り、これまでと同様に
化学物質の生態リスクを中心に研究を進めていきますので、
今後ともよろしくお願いいたします。


posted by shimana7 at 22:48| 研究 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年01月10日

新規論文の公開

新しい論文がWEBで早期公開されたのでお知らせします。

Nagai Takashi (2016)
Ecological effect assessment by species sensitivity distribution for 68 pesticides used in Japanese paddy fields
Journal of Pesticide Science
Article ID: D15-056
http://doi.org/10.1584/jpestics.D15-056

日本の水田で主に使用されている68種の農薬について、
種の感受性分布の解析を行った結果をまとめたものです。

論文の重要なポイントは二つあります。
分布の傾きや、感受性の生物種のランキングは
農薬の作用機作によって強く特徴付けられるという点が一つ目。

現行の水産動植物の被害防止に係わる農薬登録保留基準と
種の感受性分布から導かれる予測無影響濃度(HC5)を比較すると、
特定の作用機作の農薬について、
現行の基準値が大きく生態影響を過小評価していることが明らかとなった、
という点が二つ目です。

細かな点では、
現行の基準値ちょうどの濃度であった場合に
影響を受ける種の割合がどれくらいになるかを計算すると、
0.1%以下の農薬から、98.3%の農薬までの幅があったという点も面白い結果です。
つまり、基準値はなんらかの一定の影響レベルを示しているわけでは無い、
ということになります。
(もちろんゼロリスクを意味していない!)

もっと面白いのは、そのような幅がある中で、
68農薬の基準値が示す影響レベルの中央値がちょうど5%になるということです。
(これが面白いと思う人は相当なマニアだと思いますが。。。)

種の感受性分布を使って、HC5を予測無影響濃度とする場合に
「5%の種に影響が出ることを容認するなどというのは認められない」
などと言っている人は、
この結果を見たら一体何と言うのでしょうか?
posted by shimana7 at 00:59| 研究 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

WET試験活用のパブコメ


WET試験の活用についてのパブコメが出ていました。

生物応答を利用した排水管理手法の活用について
平成27年11月
生物応答を利用した水環境管理手法に関する検討会
https://www.env.go.jp/press/101686.html

魚類ではゼブラフィッシュ、
甲殻類ではニセネコゼミジンコ
藻類ではPseudokirchneriella subcapitata
を使うのですが、藻類種の理由として書いてあったことが
おもしろかったのでメモ。

Pseudokirchneriella subcapitataは国内に生息しない種なので、
これを国内の生態影響評価に使うことには以前からいろいろと
議論があったのです。
公的文書の中でこういう言い訳のような記述は実は初めて見たのでした。
よく考えたもんだなあと感心しました。


以下引用
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16p
@藻類生長阻害試験
藻類の試験では、単細胞緑藻類のムレミカヅキモ( Pseudokirchneriella
subcapitata)が、化学物質審査規制法による試験法の推奨種とされ、OECD テストガ
イドラインなどの既存試験法で最も広く用いられていることから、排水の試験生物種
とすることが推奨される。
ムレミカヅキモは昭和59(1984)年6月に採択されたOECD テストガイドライン201
藻類生長阻害試験では、Selenastrum capricornutum とされていたが、形態的特徴か
ら、P. subcapitata が正しい種名とされ、平成18(2006)年に改訂されたOECD テスト
ガイドライン201 では、P. subcapitata に変更され、現在に至っている。P.
subcapitata は国内生息種ではないが、我が国には、当初推奨種とされていたS.
capricornutum の同属種であるS. bibraianum ( Synonyms: Ankistrodesmus
bibraianus)等が生息しており、水生生物の保全の観点からの環境基準の検討に際し
ても、ムレミカヅキモの試験結果も参照されていることから、本手法の試験生物種と
することが推奨される。
----
posted by shimana7 at 00:43| 研究 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年12月18日

講演予定


来年の講演予定が大分決まってきましたのでお知らせします。
この一年たくさん講演をやらせて頂きました。
来年もよろしくお願いします。


2016/3/18 講演
日本農薬学会第41回大会シンポジウム「農薬の生態リスク評価の最近の動向−室内試験と野外での影響を繋ぐために−」。講演タイトル「室内試験と野外での影響を繋ぐ研究の最前線(仮)」
http://pssj2.jp/congresses/41/taikai41.html


2016/2/26 講演
化学物質の安全管理に関するシンポジウム(内閣府)。講演タイトル「農薬の水生生物に対する複合影響と累積リスク評価(仮)」
(webサイトはもうじき公開)


2016/2/18 講演
第68回北陸病害虫研究会(長野市)。講演タイトル「農薬の生態リスクの評価と管理」
http://hokuriku-byochu.sakura.ne.jp/apph/


2016/1/17 講演
農業環境技術研究所サイエンスカフェ「おはようからおやすみまでに潜むリスク」
http://www.niaes.affrc.go.jp/sinfo/cafe/cafe160117.html

posted by shimana7 at 11:23| 研究 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年09月27日

イベント情報


日本陸水学会大会に参加するため函館に来ています。

11月からイベント三昧です。
いくつかお知らせします。



1.第15回有機化学物質研究会
農業環境をめぐる有機化学物質研究の昨日・今日・明日
−化学物質と環境との調和を目指して−
http://www.niaes.affrc.go.jp/sinfo/sympo/h27/20151105.html

2015年11月5日に、つくばで開催されます。
私は
「農薬の水域生態リスク評価の最前線 −シングルストレスからマルチストレスの世界へ−」
というタイトルで講演します。
ここ数年の研究成果のまとめと今後の展望について話す、
という内容です。



2.2015年度第28回日本リスク研究学会年次大会
http://www.sra-japan.jp/SRAJ2015HP/indexjp.htm

2015年11月20−22日に、名古屋大学で開催されます。

私は企画セッションにて、
「もれのないリスク評価のためにデータギャップをどう埋めるか −農薬の定量的生態リスク評価の事例報告」
というタイトルで講演します。

さらに、「リスク管理の歴史学」
という一風変わった企画セッションをオーガナイズします。
詳細はまた後日お知らせすることにします。



3.日本環境変異原学会第44回大会
http://www.congre.co.jp/jems2015/

2015年11月27−28日に、九州大学で開催されます。

市民公開講座「食の安全 -リスクをどう考えたら良いのか-」
http://www.congre.co.jp/jems2015/src/jems2015_simin_0917.pdf
にて講演します。
「基準値のからくり」共著者の村上道夫とさんとの共演です。

・「我々はこれまでどれだけ危険な食品を食べてきたのだろうか?-食品中に含まれる発がん物質の評価-」
本間 正充(国立医薬品食品衛生研究所 変異遺伝部)

・「基準値の根拠から考える水の安全」
村上 道夫(福島県立医科大学 医学部 健康リスクコミュニケーション学講座)

・「基準値の根拠から考える食の安全」
永井 孝志(国立研究開発法人農業環境技術研究所・有機化学物質研究領域)



4.サイエンスカフェ
12月につくばで開催予定です。
この手のイベントに登場するのは初になります。
詳細は決まり次第告知します。
posted by shimana7 at 22:00| 研究 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年09月20日

EUにおける農薬水域生態リスク評価の新ガイダンスの根拠論文


タイトルまんまなのですが、かなりの重要文献です。

RPA van Wijngaarden, L Maltby, TCM Brock (2015)
Acute tier-1 and tier-2 effect assessment approaches in the EFSA Aquatic Guidance Document: are they sufficiently protective for insecticides?
Pest Manag Sci, 71, 1059-1067

EUでは2013年に農薬水域生態リスク評価の新ガイダンスを公表しました
Guidance on tiered risk assessment for plant protection products for aquatic organisms in edge-of-field surface waters
EFSA Journal 2013;11(7):3290

そこでは、
Tier-1: 標準試験生物種の毒性データによる評価
Tier-2: 追加試験データを用いた評価(種の感受性分布, SSD含む)
Tier-3: メソコスム試験による評価
という主に三段階の評価が採用されています。

でもって、いろんな不確実性係数が導入されており、
SSDを使う場合、HC5を不確実性係数3〜6で割ることとなっています。
上記の論文はその不確実性係数の根拠が示されています。

まずメソコスム試験による無影響濃度を「真の」無影響濃度(NOECeco)だと見なします。
(その是非はとりあえずおいといて、、、)
HC5とNOECecoは大変キレイな直線関係にありますが、
さらにHC5を3〜6で割ることで、
HC5の方がほとんどの場合に安全側の評価値になるというわけです。



これで、新ガイダンスにかかわる論文は三つめになります。
ほかの二つは以下のとおりです:
(なんか3つとも雑誌の選択間違っている気がしますが。。。)

TCM Brock, RPA van Wijngaarden (2012)
Acute toxicity tests with Daphnia magna, Americamysis bahia, Chironomus riparius and Gammarus pulex and implications of new EU requirements for the aquatic effect assessment of insecticides
Environ Sci Pollut Res, 19, 3610-3618
上記の論文はこれの続きのようになっています。

TCM Brock, M Hammers-Wirtz, U Hommen, TG Preuss, HT Ratte, I Roessink, T Strauss, PJ Van den Brink (2015)
The minimum detectable difference (MDD) and the interpretation of treatment-related effects of pesticides in experimental ecosystems
Environ Sci Pollut Res, 22, 1160-1174
こちらはTier-3のメソコスム試験の解析方法を記したものです。
これからはPRCではなくMDDです。



ここから余談。。。
余談1:上記の3論文の著者を見ればわかりますが、
このEU新ガイダンスの影響評価のパートは
ほとんどBrock氏一人で決めたのではないか?という気がします。
新ガイダンスの解説などもほとんどこの人がやっています。
この辺の権力関係がどうなっているのが大変興味深いです。

余談2:
このEUの新ガイダンスにより、
メソコスム試験に厳格な妥当性基準が設定され、
従来あったメソコスム試験のデータは
ほとんどが妥当性基準を満たせずに却下されることになりました。

すなわち、上記の論文で「真の」無影響濃度とされているデータも、
(実際にひとつひとつ調べたわけでは無いが)
ほとんどが新ガイダンスにおいては
却下されてしまうデータだということになります。

この辺にいろいろ矛盾している部分もあるわけですが、
現時点で新基準を満たすメスコスム試験データは
ほとんど存在していないわけですから、
まあまあしょうがないよね、というのも現実的な考えかと思います。
posted by shimana7 at 23:06| 研究 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年09月13日

環境毒性学会


第21回日本環境毒性学会研究発表会
(9月2〜3日 東洋大学)
に参加し、二題の発表を行いました。

○永井孝志, De Schamphelaere KAC, van Regenmortel T
Biotic Ligand Modelを用いた日本の水質における金属の生態影響評価
(口頭)

○谷地俊二、永井孝志、勝又政和
藻類の化学物質曝露期間とその後の回復期間におけるクロロフィル遅延発光の変動
(ポスター)

私の発表はBLMの宣伝ということで、
昨年ベルギーで行った研究を発表しました。
この日は曝露と毒性の統合に関する特別セッションがあったのですが、
私の発表の方がよっぽどこのテーマにふさわしかったのではないかと思います。
リスク評価では曝露と毒性を統合するのは当たり前ですからね。。。

あとは、いろいろと知り合いと情報交換できたのは良かったです。
なかなかそういう機会にも飢えているのです。

ところで、谷地さんは藻類の回復性試験に関する発表で、
ポスター賞を受賞しました。
喜びの写真を掲載します。
ポスター賞.JPG
posted by shimana7 at 22:11| 研究 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年08月04日

ネオニコシンポ報告


遅くなりましたが報告。
7月15日に、国立環境研究所において、
公開シンポジウム
「ネオニコチノイド系農薬と生物多様性〜何がどこまで分かっているか? 今後の課題は何か?」
が開催されました。
私はトップバッターで講演を行いました。

200名以上の方にご参加いただき大盛況でした。
五箇さんの集客力は凄いです。
イベント運営の面でも大変参考になりました。


地元紙の常陽新聞には1面トップで記事が掲載されました。
http://joyonews.jp/smart/?p=9375


当日の様子などは以下のサイトに詳しくレポートされています。
バッタもん日記
http://d.hatena.ne.jp/locust0138/20150716/1437065147


いずれ発表内容は総説などにまとめて公表したいと考えていますが、
講演の中から、ここではひとつ
象徴的なグラフを紹介したいと思います。
ネオニコチノイド系殺虫剤7剤の出荷量の合計と、
FAXの普及率の経年変化を示したものです。

ネオニコ出荷量相関.png

FAXの普及率は内閣府・消費動向調査、
ネオニコの出荷量は化学物質データベース WebKis-Plus
から得たデータです。

見事に一致することがわかります。
この高い相関(r=0.96!)は完全に偶然の産物です。
相関と因果関係の違いに注意しなければいけません。
経年変化が一致する(農薬の使用量と生物の減少など)というだけでは
エビデンスとしては非常に弱いものであると言わざるを得ません。



そして、そうこうしているうちに、
イギリスではネオニコチノイド系農薬の
クロチアニジンとチアメトキサムの使用が限定的に解禁へ動くそうです。

サイエンスメディアセンターに
この件に関する専門家コメントとして、
私のコメントが掲載されています。
http://smc-japan.org/?p=4126

posted by shimana7 at 22:04| 研究 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年07月23日

新しい論文


新たに論文が受理されました。
Takashi Nagai, Kiyoshi Taya and Ikuko Yoda (2015)
Comparative toxicity of twenty herbicides to five periphytic algae and the relationship with mode of action.
Environmental Toxicology & Chemistry
http://dx.doi.org/10.1002/etc.3150


これは、以前に農業環境技術研究所で公表した
河川付着藻類を用いた農薬の毒性試験マニュアル
http://www.niaes.affrc.go.jp/techdoc/algae/?0317#mokuji
に基づいて、除草剤20種の毒性試験を行った結果をまとめたものです。

5種類の付着藻類を用いた毒性試験を行い、
従来標準種として使用されてきた緑藻Pseudokirchneriella subcapitata
の毒性と比較してみると興味深いことがわかりました。

藻類の中でどの種に毒性が高いかは明確に作用機作特異的であり、
標準緑藻Pseudokirchneriella subcapitataに対して毒性が高い作用機作
違う種類の緑藻Desmodesmus subspicatusに対して毒性が高い作用機作、
珪藻に対して毒性が高い作用機作、
シアノバクテリアに対して毒性が高い作用機作、
など、バラエティに富んでいます。

そして、3つの作用機作の除草剤では、
藻類のみでも種間の感受性差はなんと10000倍にもなっていました。
どの種のデータでリスク評価をするかで結果が大きく違ってきてしまいます。

つまり、除草剤で標準緑藻のみのデータを用いたリスク評価を行うと、
リスクを見誤ってしまいます。
作用機作によって追加のデータが必要になるか、
種の感受性分布を用いることが適切と考えられます。


全部で100の毒性試験の増殖速度の全データを
Supporting Informationとして掲載してあります。
なにかに使ってみたい人はぜひどうぞ。

posted by shimana7 at 22:42| 研究 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする