2017年11月06日

日本リスク研究学会第30回大会@滋賀大学に参加しました


日本リスク研究学会第30回大会@滋賀大学に参加しました。
http://www.sra-japan.jp/SRAJ2017HP/indexjp.htm

私はこの大会で
「リスクが高いのはどっち? 〜リスク比較のからくりを探る〜」
という企画セッションを開催しました。


わかりやすいリスク比較として、
「○○と△△でリスクが高いのはどっち?」と示す手法があります。
今回は以下の3つのリスク対決を用意しました:
・やせ vs. 肥満の総死亡リスク
・野球 vs. サッカー:スポーツをめぐるリスク
・乗り物対決 〜移動にかかわるリスクの比較〜
いずれも「身近なリスク」に分類されるものです。
(リスク学会ではここ3年くらい身近なリスクに関連する企画をやっています。)
こういうバラバラな分野のリスク比較事例を
共通した切り口で見ることができるのがリスク学会の一番の面白さだと思います。

ところがこのようなわかりやすいリスク比較のなかにもさまざまなからくりが含まれています。

リスクを確率として計算する際に分母や分子に何をもってくるか、
数字の解釈の仕方等、
見方を変えることでリスクが逆転することさえありえます。
そこで、リスク同士を様々な見方から対決させて、
リスク比較の解釈の仕方を議論することを目的としました。

例えば、やせvs肥満では、
ちょいポチャのほうが死亡率が低い、という疫学データが最近よく示されています。
肥満は健康に悪いということがさんざん言われてきた中でのパラドックスだと言われてます。
これがバイアスの影響なのかどうか、ということをいろいろ場合分けしながら見ていくと、
また違った側面が見えてきます。

野球vsサッカー(スポーツのリスク)では、
プレイ中の死亡や負傷のみに注目しがちですが、
スコープを広げるともっと多面的な要素を持っています。
例えば運動による健康へのプラスの影響
プロ選手の引退後の寿命への影響、
プレイヤーのみならず観客としてのリスク
(ファウルボールでの負傷、興奮しすぎて突然死、優勝したとき道頓堀に、、、など)

乗り物対決では、
自発的移動手段としてのリスクと、社会の凶器としてのリスクの区分
リスクの指標の問題
(年間死亡率か、移動距離ごとの死亡率か、移動時間ごとか、移動回数ごとか、など)
の要素があります。

このように、共通の切り口で全く異なる分野のリスク比較を事例ベースで検討した結果、
リスク比較に共通するからくりを洗い出すことができたかと思います。

これがさらに進むとリスク比較のガイドライン化?までできるかもしれません。

posted by shimana7 at 21:53| リスク | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年07月02日

スルホキサフロルの新基準値案

平成29年6月19日 環境省 報道発表資料
「水産動植物の被害防止に係る農薬登録保留基準値(案)」に対する意見の募集(パブリックコメント)について
http://www.env.go.jp/press/104178.html
にあるように、農薬の基準値案について7月18日までパブコメが実施されています。

上記WEBサイトの
(参考2)水産動植物の被害防止に係る農薬登録保留基準として環境大臣の定める基準の設定に関する資料
に、各基準値案の根拠が掲載されています。


注目すべきはスルホキサフロルという新しい殺虫剤の基準値です。
ネオニコチノイド系農薬とは構造が異なりますが、
作用特性が近いことが知られており、
ポストネオニコに位置づけられるものです。

この殺虫剤はすでに基準値が設定されており、
環境省 水産動植物の被害防止に係る農薬登録保留基準について
http://www.env.go.jp/water/sui-kaitei/kijun.html#list03-sa
にリストされている通り、
平成26年4月7日に39,000μg/Lと設定されています。

今回はこの剤について新しいルールによって基準値が再設定されました。
昨年度から始まったこの新ルールについては以前解説したものがあります:
http://shimana7.seesaa.net/article/439257715.html


さて、スルホキサフロルの毒性データ(参考2 22ページ目)を見てみると
----
魚類[@](コイ急性毒性) 96hLC50 > 402,000 μg/L
魚類[A](ニジマス急性毒性) 96hLC50 > 387,000 μg/L
魚類[B](ブルーギル急性毒性) 96hLC50 > 360,000 μg/L

甲殻類等[@](オオミジンコ急性遊泳阻害) 48hEC50 > 399,000 μg/L
甲殻類等[A](ユスリカ幼虫急性遊泳阻害) 48hEC50 = 309 μg/L

藻類[@](ムレミカヅキモ生長阻害) 72hErC50 > 101,000 μg/L
----
となっており、ネオニコと同様、ユスリカ以外にはほとんど毒性を示しません。

そして、追加で提出されたユスリカのデータに基づき
最も低い毒性値である309を不確実係数10で割ると30.9となり、
数字を丸めて基準値案は30μg/Lとなりました。
ユスリカのデータを加えたことで、
以前の基準値と比べて1000倍以上厳しい値になりました。

このようにネオニコチノイド系農薬や類似の作用の農薬について、
新しいルールに基づく基準値の再設定が今後続くことになります。

posted by shimana7 at 22:45| リスク | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年06月04日

「○○で何人死亡」と言いたい場合のエビデンスレベルの明示の方法


国立がん研究センターなどによる研究:
たばこ対策の健康影響および経済影響の包括的評価に関する研究
http://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIDD00.do?resrchNum=201508017A
において、疫学調査などから推定された受動喫煙にによる年間死者数は
15000人(肺がん2,480人、虚血性心疾患4,460人、脳卒中8,010人)と報告されています。
たばこ=肺がんだと思っていたらそうでもないんですよね。
10万人あたりに直すと12人/年となります。
リスクファクターとしては大変大きなものと言えるでしょう。


計算方法の事例は、NATROMさんによる記事:
受動喫煙による死亡者数はどうやって計算しているのか
http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20170517
の中にとても明快に書かれています。

ツイッターなどでこれについての議論が多く行われており、
リスク学以外の分野からみた議論を興味深く見させていただきました。
一番びっくりしたのが、
受動喫煙の疫学調査はいわゆるコホート研究であって、ランダム化比較試験(RCT)ではない
(両者の違いは例えばこことかを見てください:
http://screamtheyellow.hatenablog.com/entry/2014/12/13/010753
ので、健康増進法等の規制を強化するにはエビデンスのレベルがまだ低い、
などの意見でした。

化学物質のリスクを扱う分野からするとこれで文句がつくとは
思わずひっくり返る思いがします。
人体実験が不可能の化学物質のリスク分野ではRCTは基本的にあり得ないので、
コホート研究のまともなのが一つでもあれば万々歳な世界です。
例えば農薬の有害性評価は基本的に動物実験からの外挿です。
そのため外挿における不確実性を考慮して
とりあえず100で割っておこうという「作法」が生まれてきました。
疫学研究があっても、直線閾値なしモデルによって低用量外挿をしたりします。
こういう世界と比べると受動喫煙のエビデンスなどは十分に高いレベルにあると思います。


以下の記事は受動喫煙のエビデンスレベルに関する話で、とても良記事だと思います。

科学者はどのように「不完全なエビデンス」を国民に伝えるべきか?
https://healthpolicyhealthecon.com/2017/05/28/imperfect-evidence/

受動喫煙防止法について論点整理@:受動喫煙による健康リスク・死亡者数の推定はどのくらい信用できるか?
http://krsk-phs.hatenablog.com/entry/secondhand_smoke_1


特に二番目の記事ではエビデンスレベルと不確実性の明示について書かれています。
リスク学の分野でも不確実性の明示の話は日常的に議論されています。

ちょうど昨年度のリスク学会でも、
「○○で何人死亡」と言いたい場合のエビデンスレベルの明示の方法の話を取り上げました。
http://www.sra-japan.jp/SRAJ2016HP/kikaku_session-3.htm

特に注意すべきなのは、リスク比較の文脈で、
エビデンスレベルの異なるリスクの数字を比較する際には
きちんとそのエビデンスレベルの明示が必要である、ということです。
例えば、交通事故死者数は統計情報があるのに対し、
上記の受動喫煙は疫学調査からの推定値ですので、そのエビデンスレベルは違います。
以下は昨年度のリスク学会で提案したカテゴリ分けの案です。
IARCによる発がん性の分類(1とか2Aとか)に類似の概念です。

-----
エビデンスの種類によってカテゴリを3つ(細かく分けると4つ)に分ける。
カテゴリ1は実際の統計データに基づいているので最も信頼性が高い。
ただし、単年度では件数が少ない(10人以下)、
あるいは年変動が大きく、数年分のデータで平均をとる必要がある場合もある。
そこで、単年度の実際の死者数の統計データを使用した場合にカテゴリ1A、
数年分のデータをプールして使用した場合をカテゴリ1Bとする。

カテゴリ2は信頼できる疫学調査から計算したリスクで、
カテゴリ1の次に信頼性がある。
例えば、たばこ、アルコール、肥満、食塩などは十分な数の疫学データがあり、
現状の一般人に有意なリスクが検出されているものである。

ただし、放射線などは疫学データが十分あるが、
現状の一般人に有意なリスクが検出されているものではなく、
低用量の影響を外挿(直線外挿)により補間したものとなる。
これはさら信頼度が落ちるため、カテゴリ3とする。
また、ヒトのデータが無く動物実験からの種間外挿もカテゴリ3とする。
-----

こんなようなカテゴリ分けの明示をリスク比較では活用してもらいたいです。
交通事故はカテゴリ1A、受動喫煙はカテゴリ2になります。


ただし、交通事故なら交通事故死の定義(事故発生から24時間以内に死亡した人)があり、
それを変えると年間死者数も変わってくるため、
カテゴリ1といえども絶対的な数字ではないことに注意が必要です。

さらなる問題は「分母を何にするか」ということです。
例えば入浴中の溺死(カテゴリ1A)は、
全人口を分母にしてもかなりリスクが高いのですが、
高齢者に限定すればさらにリスクは大きく上昇します。

交通事故も乗用車とバイクで分ければリスクが異なります。

すなわち、どのようなフレームで評価するかによってリスクは大きく変化します。
そして、フレームの設定はリスクを比較する目的に依存します。
また、一つのリスクを複数のフレームから評価することは、
データの見方やリスク情報の受け止め方(リスクリテラシー)
を養うのにも有効かもしれません。

posted by shimana7 at 00:02| リスク | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年06月21日

【解説】ネオニコチノイド系農薬の規制強化について


現在、環境省では農薬の登録保留基準に対するパブコメの募集が出ています。

平成28年6月6日
「水産動植物の被害防止に係る農薬登録保留基準値(案)」に対する意見の募集(パブリックコメント)について
http://www.env.go.jp/press/102614.html

この中で、
「(参考2)水産動植物の被害防止に係る農薬登録保留基準として環境大臣の定める基準の設定に関する資料」
を見ると、11種類の農薬の基準値の根拠が示されています。

このうち、クロチアニジンとチアメトキサムという
二つのネオニコチノイド系農薬に注目です。

ネオニコチノイド系農薬の生態影響についての規制が今年度から強化され、
新ルール下での初の基準値設定がこの二つになるのです。


まずはこの規制強化の流れをおさらいしてみます。


これまでの制度では、
魚類(コイ)、甲殻類(オオミジンコ)、藻類(Pseudokirchneriella subcapitata)の
3種の生物の急性毒性試験の結果(LC50やEC50)を、
種間の感受性差の不確実係数(魚類と甲殻類は10、藻類は1)
で割った最小値が基準値となっていました。
ところが、このやり方ではネオニコチノイド系農薬など、
これら3種の生物に毒性の低い(そして他の種に対してはより高い毒性が出る)
農薬の基準値が大変緩くなってしまうという問題がありました。

より細かいデータなどは以下の論文に示してあります:
永井孝志 (2016) 種の感受性分布を用いた68種の水稲用農薬の生態影響評価
Journal of Pesticide Science, 41(1), 6-14.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpestics/41/1/41_D15-056/_article

この論文の中で、
登録保留基準基準値と種の感受性分布から求めたHC5値(=予測無影響濃度に相当する値)を比較したところ、
ネオニコチノイド系、フェニルピラゾール系、スピノサドというグループにおいて、
現行の登録保留基準の制度が種の感受性分布を用いる方法に比べて、
10倍以上影響を過小評価していることが明らかになりました。

そして、
平成28年3月3日に開催された中央環境審議会 土壌農薬部会農薬小委員会(第50回)
http://www.env.go.jp/council/10dojo/y104-55b.html
においてこの問題が議論され、

「資料4 環境大臣が定める水産動植物の被害防止に係る農薬登録保留基準の設定における種の感受性差の取扱いについて(案)」
http://www.env.go.jp/council/10dojo/y104-55/siryou4.pdf
の中にこの対応が示されています。

結論として
----
@ 今後我が国において新たに登録を受けようとする殺虫剤、及び
A 既に登録されているニコチン性アセチルコリン受容体又はGABA 受容体に作
用する殺虫剤(ネライストキシン系殺虫剤を除く。)
について、水産基準値設定における審査においては、オオミジンコに加えて、農薬取締
法テストガイドラインに定められたユスリカ幼虫を用いた試験(急性遊泳阻害試験。以
下「ユスリカ試験」という。)成績の提出を求めることとする。
----
となりました。
これまでの3点セットの生物種に加えてユスリカの試験が必要になるように
制度が変わりました。
脱3点セットのはじめの一歩です。

このAについては、作用機作で記載されていますが、
要するにネオニコチノイド系、フェニルピラゾール系、スピノサドの
グループを意味します。
これらの農薬は、すでに基準値が設定済みのものであっても
新たにユスリカのデータを加えて再設定されることになりました。


さて、ここまでが長い前置きです。
この制度の変更、つまりユスリカ試験の追加が
基準値の設定にどれほど重要かを見ていきます。


一番初めのパブコメの基準値設定資料を見てみると、
クロチアニジンの毒性データは以下の通り(9ページ目):
----
魚類[@](コイ急性毒性) 96hLC50 > 98,700 μg/L
魚類[A](ブルーギル急性毒性) 96hLC50 > 117,000 μg/L
魚類[B](ニジマス急性毒性) 96hLC50 > 100,000 μg/L
甲殻類等[@](オオミジンコ急性遊泳阻害) 48hEC50 = 38,000 μg/L
甲殻類等[A](ユスリカ幼虫急性遊泳阻害) 48hEC50 = 28 μg/L
藻類[@](ムレミカヅキモ生長阻害) 72hErC50 > 264,000 μg/L
藻類[A](イカダモ生長阻害) 72hErC50 > 259,000 μg/L
----
ユスリカ以外の種にはほとんど毒性が出ないことがわかります。
結果として、ユスリカのEC50値28を不確実係数10で割った2.8μg/Lが
基準値(案)となりました。

もしもユスリカのデータが無ければ、
オオミジンコのEC50値38000を10で割った3800μg/Lが基準値となるところで、
1000倍以上も緩くなってしまいます。


次はチアメトキサムの毒性データを見てみると(32ページ目):
----
魚類[@](コイ急性毒性) 96hLC50 > 118,000 μg/L
魚類[A](ブルーギル急性毒性) 96hLC50 > 114,000 μg/L
魚類[B](ニジマス急性毒性) 96hLC50 > 98,600 μg/L
甲殻類等[@](オオミジンコ急性遊泳阻害) 48hEC50 > 98,600 μg/L
甲殻類等[A](ユスリカ幼虫急性遊泳阻害) 48hEC50 = 35 μg/L
藻類[@](ムレミカズキモ生長阻害) 72hErC50 > 89,300 μg/L
----
同様に、ユスリカ以外の種にはほとんど毒性が出ません。
結果として、ユスリカのEC50値35を不確実係数10で割った3.5μg/Lが
基準値(案)となりました。

もしもユスリカのデータが無ければ、
オオミジンコのEC50値>98600を10で割った9800μg/Lが基準値となるところで、
やはり1000倍以上緩くなります。


今年度からの新制度がいかに大きな変更であるかが
おわかり頂けるのではないかと思います。

ネオニコチノイド系農薬は欧米で規制強化、
日本でのみ規制緩和などと言っている方が結構いますがこれはウソです。
そのような事を言う人は勉強していない人なので、
信用しないようにしてください。
  
posted by shimana7 at 22:24| リスク | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年12月14日

生態リスク評価関連の海外の動向


せっかく現在海外にいるわけですが、なかなか余裕が無く
生態リスク評価の海外動向をきちんと追うことができていませんでした。
4月以降でも生態リスク評価関連の海外の動きはいくつかあるようです。
以下に備忘録としてメモを書きますが、
きちんとレポート等読めているわけではありません。

また、以下に書いた以外にもありますが、
それはまた違う機会に書いてみようと思います。



-----
1,オランダでイミダクロプリドの水質基準値案が出された

Water quality standards for imidacloprid : Proposal for an update according to the Water Framework Directive
http://www.rivm.nl/en/Documents_and_publications/Scientific/Reports/2014/april/Water_quality_standards_for_imidacloprid_Proposal_for_an_update_according_to_the_Water_Framework_Directive

かなり厳しい基準値の様に見えるが、
慢性影響をベースとしているので、このくらいにはなるかな、という感じ
年間平均値でこれを超えるようなことは無さそう。



2,OECDのテストガイドラインにフサモ(Myriophyllum)の試験法が追加

Test No. 238: Sediment-Free Myriophyllum Spicatum Toxicity Test
Test No. 239: Water-Sediment Myriophyllum Spicatum Toxicity Test
http://www.oecd-ilibrary.org/environment/oecd-guidelines-for-the-testing-of-chemicals-section-2-effects-on-biotic-systems_20745761

藻類やウキクサに対して毒性が高くないオーキシン系の除草剤を
メインターゲットとした試験法。



3,ECETOCから、種の感受性分布(SSD)についてのレポートが公開

WR 28 : Estimating toxicity thresholds for aquatic ecological communities from sensitivity distributions | 02/12/2014
http://www.ecetoc.org/index.php?mact=MCSoap,cntnt01,details,0&cntnt01by_category=22&cntnt01order_by=date%20Desc&cntnt01template=display_list_v2&cntnt01display_template=display_details_v2&cntnt01document_id=9643&cntnt01returnid=59

SSDのさらなる活用についての今後の課題などがまとまっている感じ



4,EFSAが複数の化学物質によるリスク評価法についての会議を開催

EFSA Scientific Colloquium N°21: Harmonisation of human and ecological risk assessment of combined exposure to multiple chemicals
http://www.efsa.europa.eu/en/events/event/140911.htm

生態影響についてもプレゼン資料が公開されている。
濃度加算モデル(Concentration Addition Model)の
レギュラトリーな活用に向かって突き進んでいるかのように見える。

posted by shimana7 at 06:31| リスク | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年07月01日

前書き図書館


講談社ブルーバックス「基準値のからくり」
〜安全はこうして数字になった〜
いよいよ発売開始となりました。

すでに買って頂いた方、ありがとうございます。
おかげ様で好調な滑り出しのようです。
感想などいただけると大変うれしく思います。

ところで、電子版については現在作成中です。
まだ発売時期はわかりませんが、とにかく出ます。
電子版をご希望の方はしばらくお待ちください。



ところで、ブルーバックスシリーズには、
シリーズ各本の前書きだけを集めた
「前書き図書館」
というものがあります。
前書きって本編とは別に
著者の「本に込めた想い」が覗けて面白いですよね。


「基準値のからくり」についても、
ここで前書きを読むことができます。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/39614

他のブルーバックスの前書きも読んで頂くとわかるのですが、
「基準値のからくり」の前書きはすごく長いです。。。
「ちょっと長い前書き」
というタイトルが付いてしまったくらいです。

じつはここで、飲酒はなぜ20歳から?
がネタバレしています。
これ以外にもいろんな面白いネタがありますので、
これで興味をもたれた方はぜひ本編も読んでみてください。


飲酒の話がネタバレしたので、
もう一つくらいネタを投下します。

昨年からニュースでもたびたび登場するPM2.5、
日本の大気環境基準は15μg/m3と決まっています。
当時の専門委員会の議論では、
疫学研究の結果からこの15という数字は緩すぎる
として反対意見があり、
その行方が注目されました。
ところが、その基準値の決着は驚くべき意外な形で訪れたのです。

知ればきっと驚くはずです。
本当に事実は小説より奇なりです。

posted by shimana7 at 06:24| リスク | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年06月16日

「基準値のからくり」という本を出版します


重要な告知とは本の出版についてです。
いよいよ今週発売となりました。

表紙.png
講談社ブルーバックス
「基準値のからくり〜安全はこうして数字になった〜」
村上道夫、永井孝志、小野恭子、岸本充生 著
税込み994円です。
http://www.amazon.co.jp/dp/4062578689/ref=cm_sw_r_tw_dp_WG1Mtb03D9WW0



安全に関する本としては、類を見ない面白い本になったと思います!

この本は巷に良くある、
〇〇は安全か危険か、ということを論じた本ではありません。

私たちの安全を守る基準値というものは
いったいどんな風に決まっているのか?
その根拠を探ってみると、それは純粋に驚きの連続であって、
知的好奇心をビリビリ刺激する新しい世界が広がっていた!
という本なのです。

例えば、お酒はなぜ20歳からなのか?
大人よりも子供の方がアルコールの害が
出やすいことは科学的に知られています。
でもそれだけでは、
なぜ19歳でも21歳でもなく20歳なのか?
は説明できませんよね?
(実際に国によって、飲酒開始年齢はバラツキがあります)
その根拠を知った時にはきっと驚くはずです。

本の帯には
「複雑怪奇な数値の根拠に、4人の基準値オタクが斬り込む!」
と書いてあるように、
事実は小説より奇なりな世界を味わってください。



本は以下の10章構成です。
それぞれ完結していますので、
興味のあるところから読むことができます。

第1章 消費期限と賞味期限 〜「おいしさ」の基準値の「おかしさ」〜。
第2章 食文化と基準値 〜基準値やめますか?日本人やめますか?〜。
第3章 水道水の基準値 〜断水すべきか? それが問題だ〜。
第4章 放射性物質の基準値 〜「暫定規制値」とは何だったのか〜。
第5章 古典的な決め方の基準値 〜「リスクとは無関係」な基準値がある〜。
第6章 大気汚染の基準値 〜「PM2・5」をめぐる舞台裏〜。
第7章 原発事故「避難と除染」の基準値 〜「安全側」でさえあればいいのか?〜。
第8章 生態系保全の基準値 〜人間の都合で決まる「何を守るか」〜。
第9章 危険物からの距離の基準値 〜「電車内の携帯電話」から水素スタンドまで〜。
第10章 交通安全の基準値 〜「年間4000人」は受け入れられるリスクか〜。



基準値の根拠についての本ですが、
やはり取りあげる基準値は安全に係わるものなので、
安全とは何か?
という深いテーマにも踏み込んでいます。
この本では、従来から日本で流されている
「安全は科学的・客観的に決まるものだが、安心は心理的なもの」
という安全安心二分法に異議を唱えます。


安全とは「受け入れられないリスクの無い状態」
という国際標準の定義を採用しています。
あるリスクが受け入れられるかどうかは、
リスクの大きさだけでは無く、
社会的、倫理的、心理的な要素をふんだんに含んでいます。
この「受け入れられるリスクの大きさ」と
基準値の関係も考察しています。


と、ここまで書くとかなりお腹いっぱい感が出てきます。
一般向けの本なので、
上記の点はそこまで深く論じているわけではありません。
本として面白いのは、コラムをたくさん入れた点です。
3秒ルールはなぜ3秒?というような脱力系のコラムもあり、
読み物として楽しいものになっているはずです。
そして、知ったら誰かに話したくなる、
そんな話題がいっぱいです。


そして、読み物として面白い本としながらも、
基本的な環境リスク学の知識
(NOAELや不確実性係数、ADI、曝露マージン、線形閾値無しモデル、ALARAの原則など)も詰め込まれていますので、
リスク学の入門書としてもお薦めです。
リスクの科学って面白い!と思って貰えたら嬉しいです。

posted by shimana7 at 05:53| リスク | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年01月20日

RNAiのリスク評価?


私、全く疎いのですが、気になる記事がありました。

RNAi White Paper Published in Advance of January 28 Scientific Advisory Panel Meeting
http://www.epa.gov/oppfead1/cb/csb_page/updates/2014/rnai-whitepaper.html

米国環境保護庁が
RNAi Technology as a Pesticide: Problem Formulation for Human Health and Ecological Risk Assessment
「農薬としてのRNA干渉:ヒト健康と生態リスク評価の問題設定」
なる白書を公表したというものです。

RNA干渉を応用した農薬(非GM利用)の開発が進みつつあるようです。

なるほど、少し検索しただけでも日本でもいろいろ研究があるようです。
↓これとか、
RNA を用いた非GM 型新奇害虫防除法
http://www.jst.go.jp/a-step/seeds/list-e/pdf/h23/AS231Z00228E.pdf

↓これとか。
農薬や抗生物質を用いない安全な養蜂生産物の生産と環境保全型養蜂様式の確立に関する研究
http://www.nakashima-foundation.org/kieikai/pdf/21/05.pdf


まあ当然、新規の技術には新規のリスクがあるわけで、、、
日本でだれかリスク評価の部分までカバーしている人いますかね???

きちんと読んだわけでは無いですが、EPAの白書では、
基本的には従来の微生物農薬のリスク評価のフレームワークが応用可能、
といったことが書かれているようですが。
posted by shimana7 at 23:59| リスク | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年09月29日

リスクの受容レベルについての議論


新しい記事が公表されました。

村上道夫、永井孝志 (2013)
微量化学物質の発がんリスクとその受容レベル
日本水環境学会誌, 36(9), 322-326
http://shimana7.web.fc2.com/research/PDF/g3-16.pdf
(PDFを公開しても良いということなので、公開します)

いつもの生態リスクではなく、発がんリスクをテーマにしたものです。
3.11以降をめぐる放射線のリスクの議論においては、
リスクの受容レベルというものを議論せざるを得ない状況になっています。
そもそも(表面上の)ゼロリスクを目指してきたこれまでとの矛盾とも
向き合わなければいけない時期に来ています。

この記事は、
発がん性のようなゼロリスクを認めることができない場合の
考え方についてまとめたものです。


関連して、最近行われたイベントに面白いものがありました:
公開シンポジウム「社会が受け入れられるリスクとは何か」
http://www.scj.go.jp/ja/event/130905.html

これはまさしくリスクの受容レベルについて正面から扱うという
チャレンジングなイベントです。

この中で、中西準子さんが
「しきい値なしモデルとリスク受容の課題」
というテーマで講演されています。
(スライドも公開されています)

非常に関連する内容なので、
ぜひセットでご覧頂けるとうれしいです。



以上の記事とイベントは、
発がん性について扱ったものですが、
じつは非発がん性ものについても同じ扱いが可能です。
というよりも、同じ扱いをしなければいけない時代に来ている、
と言った方が良いかもしれません。

これは、
NOAEL(No Observed Adverse Effect Level)

NOEC(No Observed Effect Conentration)
を無影響量、無影響濃度と(おそらく意図的に)誤訳してきた
ことがそろそろ通用しなくなる、ことを意味しています。
本当はこれらは無影響を意味しませんし、
特定の影響レベルを意味するものですらありません。

NOAELやNOEC以下だから無影響(ゼロリスク)なのだと
これまで説明し続けてきたことで、
リスクの受容レベルについての
(はっきり言って面倒くさい)議論を避けてきた
のが現状と言えるでしょう。

今後は発がんも、非発がんも同様にリスクの受容レベルについての
議論を本格的に行っていく必要が出てくると思います。


posted by shimana7 at 22:40| リスク | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年04月19日

講演:解決志向リスク評価


講演の宣伝です。
日本リスク研究学会のシンポジウム(@東大)で講演を行います。


http://www.sra-japan.jp/cms/modules/piCal/index.php?smode=Daily&action=View&event_id=0000000057&caldate=2013-4-19
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日本リスク研究学会 第26回シンポジウム
《食品安全のためのリスク分析のこれまでとこれから》

日時:2013年6月14日(金)
 第一部 14:00〜17:00
 第二部 17:20〜19:20(予定)
会場:東京大学山上会館
参加費:
 第一部 シンポジウム 会員・協賛会員及び学生 2,000 円、一般 3,000 円
 第二部 意見交換会 会員・協賛会員及び学生 3,000 円、一般 4,000 円 (立食代を含む)
主催:一般社団法人 日本リスク研究学会

開催趣旨:BSE問題をきっかけに食品安全委員会が設立され、リスク評価とリスク管理を機能的・組織的に分離する形でリスク分析が導入されてから今年でちょうど10年になります。最近では東日本大震災後に生じた食品中の放射性物質の問題においてもリスク評価は注目を集めました。本シンポジウムは、食品安全を題材に、様々な切り口から、リスク分析が食品安全分野においてうまく機能してきたかどうかを振り返り、リスク分析が社会の安全のためにさらに貢献できるように、これからのあるべき姿を探っていきたいと考えています。

第一部 プログラム

松尾真紀子氏(東京大学政策ビジョン研究センター研究員)
「日本の食品安全行政ガバナンスの制度変容と今後の課題」

広瀬 明彦氏(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター総合評価研究室 室長)
「食品等に含まれる化学物質のリスク評価の経験とそこから見えてきた課題」

山崎洋氏(関西学院大学名誉教授、元IARC研究部長)
「発がん性評価のありかたーIARCの経験をもとに」

永井 孝志氏 (独立行政法人 農業環境技術研究所 研究員)
「リスク評価とリスク管理の位置づけを再構成する解決志向リスク評価」


総合討論

司会・進行: 岸本充生((独)産業技術総合研究所 安全科学研究部門 研究グループ長)
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タイトルにある解決志向リスク評価とは、
Solution-Focused Risk Assessmentの訳です。

Solution-Focused Risk Assessmentについては
以前の記事でも紹介しました。
http://shimana7.seesaa.net/article/301037999.html


私の研究テーマ(農薬の生態リスク評価)とは少し離れます。
ただ、私はもともと基準値の設定プロセスに強い興味を持っています。

リスク評価はADIやTDIなどの線引きする。
リスク管理は基準値を決めてそれ以下になるように管理する
(基準値を超えた超えないで一喜一憂する)
というやり方へのアンチテーゼとして解決志向リスク評価があります。

いろんな事例をもとにこの考え方の極意を
紹介できればいいなと思っています。
posted by shimana7 at 21:15| リスク | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする