2018年03月27日

菌類試験法論文公開


新しい論文がEnvironmental Toxicology and Chemistry誌に受理され、オンライン公開となりました。

Nagai T (2018) A novel, efficient, and ecologically relevant bioassay method using aquatic fungi and fungal‐like organism for fungicide ecological effect assessment. Environmental Toxicology and Chemistry, in press
https://doi.org/10.1002/etc.4138

この論文は、菌類(+菌類様微生物)を用いた新しい毒性試験法を開発したという内容です。

農薬は大きく分けると殺虫剤、殺菌剤、除草剤の3つに分かれます。殺虫剤は節足動物によく効く(=毒性が強い)ので、オオミジンコを用いて毒性を把握することができます(もちろん例外はあります)。除草剤は植物によく効くので、藻類を用いて毒性を把握することができます(同様に例外はあります)。

さて、殺菌剤は病原性の菌類を主なターゲットとするわけですから、ノンターゲット(病原性のない菌類)に対しても強い毒性を持つはずです。そして、菌類は生態系の中で分解者として、また寄生性を持つなどして生態系の中で重要な役割を果たすので、生態リスクを適切に評価すべきです。ところが、現在生態リスク評価で用いられる3点セット(魚類、オオミジンコ、緑藻)では、殺虫剤や除草剤の影響を把握することはできても、殺菌剤の影響を把握することは困難であることがわかります。

以上のようなモチベーションで研究を進めてきました。菌類のことなど全く分からなかったところから猛勉強しましたが、新しいことを勉強するのは楽しいものです。

生態学的に重要と思われる試験生物種5種を選定し、5種同時に試験できるようなハイスループット系の効率的な毒性試験法を開発しました。5種の毒性データが揃うと、種の感受性分布の解析ができます。

試験生物種は以下の5種です:
Rhizophydium brooksiaum(ツボカビの一種)
Chytriomyces hyalinus(ツボカビの一種)
Tetracladium setigerum(水生不完全菌とも呼ばれる子嚢菌の一種)
Sporobolomyces roseus(酵母、担子菌の一種)
Aphanomyces stellatus(卵菌類の一種、分類学的には菌類ではないが偽菌類と呼ばれ、菌類とよく似た性質を示す)

幅広い分類群から選定し、菌類の持つ生態系機能をカバーできるようにしたことが特徴です。これが論文のタイトルにもある「ecologically relevant」の意味となります。

試験方法は、藻類で実績のある96穴マイクロプレートを使う方法です。菌類のバイオマスはATP発光試薬を入れてATP発光として測定します。マイクロプレートリーダーで自動測定できるので大変効率的です。

実際にマラカイトグリーンという魚の水カビ病の治療薬(現在は食用魚には使われません)を用いて毒性試験を行ったところ、菌類以外の生物種に比べて、非常に毒性が強く検出されました。

今はこの開発した試験法を用いて各種殺菌剤の試験を進めてきたところです。こちらもなかなかおもしろい結果が出ていますが、それはまた今後報告させていただきます。

posted by shimana7 at 22:44| 研究 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年03月13日

複数農薬の累積的生態リスク評価ツール NIAES-CERAP


新しいリスク評価ツールが公開されました

複数農薬の累積的生態リスク評価ツール NIAES-CERAP
http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/pub2016_or_later/laboratory/niaes/manual/079666.html

概要の部分を以下に引用します:
-----
これまでに、種の感受性分布の概念を用いて農薬の生態リスクを定量的に評価する手法を開発し、簡便な評価ツールを公開してきました(技術マニュアル:農薬の生態リスク評価のための種の感受性分布解析)。
ただし、このツールは個別の農薬のリスク評価にしか対応していませんでした。個別の農薬のリスクが低いと判定された場合であっても、実際の環境中では数十もの多種類の農薬が同時に検出されるため、複数の農薬の複合影響を考慮して累積的な生態リスクを評価することが必要となります。
そこで、既存の複合影響予測モデルを組み合わせて多数の農薬の複合影響を評価できる NIAES-CERAP (Cumulative Ecological Risk Assessment of Pesticides) を新たに開発しました。モニタリングなどによって得られた複数の農薬の環境中濃度を入力すると、評価結果が表示される簡便なツールとなっています。
-----

これまでにSSDを用いた生態リスク評価手法の開発を続けてきましたが、今度はSSDと既存の複合影響予測モデルを組み合わせて、多数の農薬の曝露下での累積リスクを計算できるように改良を行ったものです。

元となる論文は以下のものです:
Nagai T (2017)
Predicting herbicide mixture effects on multiple algal species using mixture toxicity models
Environmental Toxicology and Chemistry, 36(10), 2624-2630
http://dx.doi.org/10.1002/etc.3800

除草剤-藻類を対象に、5種類の除草剤を混合して5種類の藻類に曝露させ、その応答を影響を受ける種の割合で表現しました(5種の藻類のうち、1種が影響を受けたら20%とするなど)。

これとは別に、それぞれ5種類の除草剤の単独のSSDと複合影響予測モデルを組み合わせて、影響を受ける種の割合を予測します。

この両者を比較したところ、作用機作が同じ除草剤を混合した場合は濃度加算モデル(CA)、作用機作が異なる除草剤を混合した場合は独立影響モデル(IA)がより良い予測結果を示していました。

この結果は、既存の複合影響モデルが単独の生物の影響のみではなくSSDのような多種系にも適用可能であることを示しています。

私自身はこのような計算をRを使ってやっていますが、これをエクセルに濃度を入力するだけで計算できるようなツールを作りました。農薬の濃度モニタリングを行っている方にはぜひとも使っていただきたいツールとなっています。

posted by shimana7 at 22:55| 研究 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年07月27日

契約研究員の募集


一緒に働いていただける方を募集中です。
修士または博士が対象です。
農薬が水草に与える影響を評価します。

契約研究員の募集【生態リスク】

勤務条件、仕事内容などの問い合わせは私でも大丈夫です。
なお、プロジェクトは少なくとも3年は続く見込みです。

ぜひともよろしくお願いします。
posted by shimana7 at 08:01| 研究 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年05月27日

SETACヨーロッパ大会に参加しました


5月7-11日にベルギーのブリュッセルで行われた
SETACヨーロッパミーティングに参加してきました。
久しぶりのベルギーで心躍る出張でした。

2年ぶりのSETACヨーロッパですが、
今回も非常に勉強になることが多かったので
忙しい中でも行ってよかったです。



・水草関係
実は今年度から水草を研究対象に加えています。
今回は水草関連の情報収集がメインタスクでした。

Glyceriaというイネ科の水草の試験ガイドラインが開発中ということですが、
リングテストのばらつきが大きく、問題があるようです。

また、水草でSSD解析を行うために、多種の水草で試験を行うような系が構築されており、
マツモやハゴロモモ、スギナモなどが利用できそうでした。


・陸上植物
水草に加えて以外にも陸上植物の話題が非常に目立っていました。
OECD208を用いた毒性試験やメソコスムを用いた高次評価法の提案など、
バラエティに富んだものでした。
これまで全くノーマークだったので大変勉強になりました。


・金属関係
Bio-metというBiotic ligand model (BLM)の簡易ツールが更新されて
ver4.0になったらしいです。
新たに鉛の計算ができるようになりました。
http://bio-met.net/

鉛のBLMは完成段階で、full BLM補正とbio-met、PNEC-pro、DOC補正が比較され、
bio-metとPNEC-proの二つの簡易ツールは
そこそこ使える(Full BLMとほぼ同じ結果になる)ようです。

業界団体が中心となって
Metals in the environment
http://metalsintheenvironment.com/
というサイトが出来上がりました。
金属の生物利用性や複合毒性、モデルなど、様々な情報が掲載されているようです。
特にインフォグラフィック的なアニメーションの出来が良く、おススメです。


・殺菌剤の生態影響
殺菌剤は当然ながら水生菌類に高い毒性を持つはずですが、
このあたりの知見は驚くほど少ないです。
重要性は多くの人が認識していますが、
やはり評価が難しいというのが研究が停滞している理由かと思います。
そこで、個別の水生菌類種への影響よりも、
有機物分解や栄養塩循環など、生態系機能を評価軸としている研究がほとんどです。
今回の学会でも葉っぱの分解速度をエンドポイントにするなどの研究が多かったです。

ちなみに私のポスター発表は、
水生菌類の個別種を用いた毒性試験法の検討についてだったのです。
しかし、最終日でポスターセッションの時間がほとんどなく、
まだセッションの時間が終わってないのに、会場がどんどん片付けられていき、
あまり議論にならなかったのが残念なところです。


・SSD関連
STOWAというところからSSDを用いた
生態リスク計算ツールが出ているようです(オランダ語のみ、まだ試してない)。
http://www.stowa.nl/publicaties/publicaties/Ecologische_Sleutelfactor_Toxiciteit__Hoofdrapport__deelrapporten_en_rekentools_

ssdと複合影響モデルを組み合わせると、
累積リスク(複数物質によって影響を受ける種の割合)が計算できます。
これをかなり幅広に解析してみると、
Top1%の物質で99%の影響は説明できるということで、
検出される物質の数はリスクにはあまり関係がないということでした。
さらに、これらの地点で実際の生物調査も行っており、
影響が5%を超えると生物相に影響が出だすというデータが得られています。
5%以下にするための希釈率を計算すると、
これをFootprintとすることができ、一つの指標になるようです。
実際には多様な土地利用が混ざっていたほうが(日本型の土地利用?)
Footprintは少なくなるようでした。


・複合影響
「The sequence makes the poison(毒かどうかは順番が決める)」という
秀逸なタイトルの発表がありました。
パラケルススの「The dose makes the poison」へのオマージュ(?)で、
このセンスはとても好きです。
物質AとBを時間差で曝露させるのですが、
どちらを先に曝露させるかで影響の出方が大きく異なる、
という実験結果が出されていました。
まあ遅効性のものと即効性のものをうまく組み合わせれば、
そういう結果を生み出すことはできるかと思います。


・行動への影響
Viewpointという魚の稚魚の行動を録画して解析するツール:
http://www.viewpoint.fr/en/p/equipment/zebrabox
が面白いと思いました。
ほかにも類似のツールはいくつかありましたが、
ミジンコの遊泳阻害とか、通常の毒性試験も
画像解析とAIで自動でできるようになるような日も近いと感じました。


・曝露評価関係
水中濃度を予測するいわゆる曝露モデルは
もういろいろなものが出そろっていますが、
これを毒性試験を行うマイクロプレート中の被験物質濃度の経時変化を
予測するために適用した事例が面白かったです。
やりかたはごく普通の分解速度や吸着係数などのパラメータを使って計算するものですが、
このアイディアは思いつかなかったなあ、と感心しました。


・ゲント訪問
最後に以前在籍していたゲント大学を訪問しました。
同じ市内ですがラボを引っ越して、以前の古いラボから
とても新しくきれいなラボになっていました。


・感想
一度にこれだけ多くの見知らぬ情報が得られるというのは、
やはりSETACをおいてほかにはないと思います。
ただ、日本人の参加者は年を追うごとに少なくなってきているのが気になります。
このまま日本との差がどんどん開いていってしまうのでしょうかね。。。

IMG_5051.JPG
写真は会場の入り口です。
入り口では手荷物検査をされ、
金属探知機によるチェックや服のポケットなどをチェックされたりしました。
テロが警戒されている区域なので、まあしょうがないでしょうが、
学会でのこのような経験はショッキングでした。

あと、今回の大会はアートとの融合がサブテーマとなっており、
美術系大学と連携し、
会場の様々な箇所にサイエンスや水生生物などをテーマとした
現代アート作品が展示されていました。
これもなかなか新鮮な経験でした。

posted by shimana7 at 23:12| 研究 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年03月02日

募集

4月以降一緒に働いて頂ける方を募集しています。
農業環境変動センター 契約職員(補助員(研究助手))の募集について:
http://www.naro.affrc.go.jp/acquisition/2017/02/074024.html

主に農薬分析の仕事になります。
私のところに連絡頂いても質問には答えられます。

よろしくお願いします。
posted by shimana7 at 22:23| 研究 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年12月31日

曝露関連論文2016


2016年も終わりになりました。
嬉しいことに今年は曝露関連の論文が結構多く出ました。
ここで一気に紹介したいと思います。

1.Yabuki Y, Nagai T, Inao K, Ono J, Aiko N, Ohtsuka N, Tanaka H, Tanimori S (2016)
Temperature dependence on the pesticide sampling rate of polar organic chemical integrative samplers (POCIS)
Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 80(10), 2069-2075
http://dx.doi.org/10.1080/09168451.2016.1191329

前回の記事(SETAC北米大会)
http://shimana7.seesaa.net/article/444264667.html
でもちょこっと紹介しましたが、
水中に農薬を吸着するサンプラー(パッシブサンプラー)を
一定期間沈めておいて、それを回収して分析する手法の報告です。

吸着速度は温度による影響が大きいので、
その温度による影響を調べて、
吸着量から農薬濃度を計算する際の温度の補正式を出しました。

農薬濃度は経時変化が激しいため、高頻度のサンプリングが必要となりますが、
パッシブサンプラーなら、沈めて置いた期間の平均濃度を
容易に知ることができます。

ただし、パッシブサンプリングは単なる簡易モニタリング手法ではありません。
パッシブサンプラーは基本的に
水中の生物が化学物質を取り込む様式を模倣したものなので、
むしろこちらで得られた結果こそが、
生物への曝露量を正確に表しているものと考えられます。

これまで私がやってきたのは
農薬のピーク濃度を曝露量とした用いた生態リスク評価ですが、
今後はこのようなパッシブサンプリングで測定できる
累積曝露量を用いた生態リスク評価に
取り組んでみたいと考えています。



2.谷地俊二、永井孝志、稲生圭哉 (2016)
水田使用農薬の県別用途別使用量の簡便な推定方法の開発
日本農薬学会誌, 41(1), 1-10

解説は以前に書きました:
http://shimana7.seesaa.net/article/436874563.html

現在はJ-Stageで公開されています!:
http://doi.org/10.1584/jpestics.W15-31

この論文が河川水中の農薬濃度の全国分布を予測する下記の4番の論文に続きます。



3.岩崎亘典、稲生圭哉、永井孝志 (2016)
河川上流側の水稲作付面積率の算定手法の開発−国土数値情報と農林水産統計情報に基づく解析−
GIS -理論と応用-, 24(1), 31-38

この論文も下記の4番の論文に続きます。
河川水中農薬濃度の予測には、
農薬の使用に関するデータと水稲作付面積や河川流量などの
環境要因のデータが必要となります。
この論文はそのうちの流域別水稲作付面積の推定手法に関する報告です。

国土数値情報には水田や畑地など土地利用に関するデータと、
流域界に関するデータがありますので、
それらのデータを用いると流域別の水田面積を推定できます。

ただし、実際に農薬が使用されるのは水田ではなく、
水稲が作付けされた土地になります。
土地利用区分における「水田」とは、
畦畔も含んでいたり、
麦など別の作物が作付けされている場合もあります。
水田面積から水稲作付面積に変換するために
別途農林水産統計のデータを用いています。

さらに、現在は河川の任意の地点を地図上で選択すると、
そこから上流の流域における水田面積を
自動で計算してくれるツールを開発しているところです。



4.谷地俊二、永井孝志、稲生圭哉 (2017)
全国350の流量観測地点を対象とした水田使用農薬の河川水中予測濃度の地域特異性の解析
日本農薬学会誌, in press

タイトルのとおり、全国350の流量観測地点を対象として、
水田使用農薬の河川水中予測濃度の地域特異性を解析したものです。
2番と3番の論文の情報と、流量観測地点の河川流量データから、
農薬の水中ピーク濃度を予測できます。
実測値による検証は最低限行っていますが、
まだ今後も積み重ねていく必要があります。



また、この曝露濃度のデータと各農薬の生態毒性データから、
生態リスクの全国分布を評価することができます。
ここまでくるには何段階もの研究の積み重ねが必要で、
一つずつ論文として出版することでオーソライズしながら
進めていく事が重要でした。

毒性の方も論文の積み重ねが順調に進んでいますので、
2017年はひとまずのリスク評価までの仕上げの年になりそうです。
posted by shimana7 at 23:07| 研究 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年11月23日

SETAC 北米大会に参加しました



The 7th SETAC World Congress/37th SETAC North America Annual Meeting
2016年11月6-10日 フロリダ州オーランド
https://orlando.setac.org/
に行ってきました。実は北米大会は初参加です。


・金属関係
Metal Mixtureの関連は発表の数も大変多く盛り上がっていた感じでした。
ほとんどのものが、金属のMixtureはCAモデルと比較すると拮抗作用、
もしくはIAモデルが合う、という内容のものでした。
つまりは、各金属の作用機作は異なっていて、
同じLigandに結合して毒性を発現するというモデルは通用しなさそう、
ということが示唆されていました。


・パッシブサンプリング
今回とても収穫の多いセッションでした。
農薬のモニタリングのためのパッシブサンプラーである
POCISは大人気のようでした。

我々もPOCISを大プッシュしていますよ:
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27305429

ところが、さらに新登場したのがo-DGT(organic DGT)です。
その名の通り、金属のモニタリング用に開発されたDGTの有機物版です。
ほやほやの論文:
http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/acs.analchem.6b02749
これは将来楽しみですね。

ちなみに、オリジナルのDGTについてはコチラ(拙著):
https://www.jstage.jst.go.jp/article/rikusui/68/3/68_3_391/_article/-char/ja/


・メソコスム、野外生態系観測
USGSのグループが質・量ともにぶっちぎりな感じでした。

1年間の間に100地点で12回のサンプリングを行い、
農薬は2種類のパッシブサンプラーを用いて300種類測っていて、
生物相も魚類、底生動物、藻類を調べていて、
さらに、野外で採取した生物群集を用いて、
メソコスム実験をするとか、
聞いていて気を失いそうになりました。。。

WEBサイトは以下:
The Midwest Regional Stream Quality Assessment (MSQA)
https://txpub.usgs.gov/RSQA/MSQA.aspx
データもダウンロードできるようです。


・農薬の生態リスク
ネオニコ関係はいくつか面白いものもありましたが、
ハチの野外試験などがメインで、
あまり私の興味の対象ではパッとしたものがありませんでした。


・Major ion
米国の電気伝導度の基準値は室内試験では無く
野外生態系観測の結果から決まっているそうで、
こういうアプローチの成功事例になるだろうと思いました。

USEPA: A Field-Based Aquatic Life Benchmark for Conductivity in Central Appalachian Streams (Final Report)
https://cfpub.epa.gov/ncea/risk/recordisplay.cfm?deid=233809&CFID=80271835&CFTOKEN=20606729

Aquatic Life Benchmarkとあるので、
まだ国の基準値として採用はされていないのだろうと思います。
それにしても面白いデータです。
野外生物調査の結果からSSDを構築してfield-based HC5を計算しています。
当然ながら海水と淡水では生物相が全く違うので、
そもそも電気伝導度というのは
生物相の差が出やすいんだろうな、とは思うのですが。


・水質基準ガイドラインの改訂
こちらは国の基準値設定の大元となるガイドラインの改定に関する話。
現在のガイドラインは1985年に作られて、
30年以上改訂されていないのです。

USEPA: Guidelines for Deriving Numerical National Water Quality Criteria for the Protection of Aquatic Organisms and Their Uses
https://www.epa.gov/wqc/guidelines-deriving-numerical-national-water-quality-criteria-protection-aquatic-organisms-and

現在この改訂作業が進んでおり、
スコープ文書なるものが2017年、
最終的な新ガイドラインの発効は2021年を予定しているのだそうです。


・自分の発表
私は二件のポスター発表:金属関係1つと農薬関係1つを行いました。
興味を持ってくれたのはほとんど産業界の人でした。
論文の別刷りは全部はけましたが、
ヨーロッパ大会ではいつも足りなくなっていたポスターのA4コピーは全然はけず、
興味の対象も違うのかもしれません。


・全体
会場はだだっ広いホテルでリゾートな雰囲気はあるものの、
周りになーんにも無く、
外にランチを食べに行くこともできない不便すぎなところでした。
せめて町中でやって欲しいところです。

IMG_3488.JPG

会場で売られているまっずいサンドイッチ(8$!)は衝撃的でした。

IMG_3485.JPG

オーランドはディズニーやUSJもあり、
ちょっと足を伸ばせばケネディ宇宙センターなどもあり、
見所いっぱいな場所だそうですが、
そんな雰囲気を感じることも無く帰路につきました。。。


posted by shimana7 at 23:08| 研究 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年09月11日

環境毒性学会@愛媛

ということで、先週は第22回日本環境毒性学会研究発表会(愛媛大学)
に行ってきました。

この学会でも種の感受性分布を使用した研究が増えてきたなあ、
という印象です。
マニュアルを出した影響があるかもしれませんが、
良い傾向になってきたなという印象です。

私は2日間で口頭発表を3題行いました:
「珪藻Navicula pelliculosaへの金属毒性に対する硬度とpHの影響」
「室内毒性試験、種の感受性分布、メソコスムを活用した生態影響評価結果の相互比較」
「環境毒性学とレギュラトリーサイエンス 〜農薬の生態リスク評価の事例から〜」

いろいろ発表を頼まれているうちに増えてしまい、
3題口頭発表という初の経験となりました。

SSDを使うからには結果の数字の意味まできちんと考えてやってね、
といことで、特に二題目の発表
「室内毒性試験、種の感受性分布、メソコスムを活用した生態影響評価結果の相互比較」
はそのようなことを意識して発表したつもりです。
HC5を超えたからリスクが高いとか言っていた発表もあったかと思いますが、
もうすこし数字の解釈は丁寧にやって欲しいものです。

シンポジウムでは
レギュラトリーサイエンスをテーマにした発表も行いました。
日本リスク研究学会の活動の方でこの手の事例は豊富に持っているので、
ネタを絞るのに苦労しました。
最初に一生懸命作ったネタとスライドは、
後で見返すとあまりに明後日の方向を向いていたので、
ほとんどボツにして大分無難な内容に抑えました。

「レギュラトリーサイエンス」という用語が非常に微妙なものであることは
このシンポジウムのなかでもいろいろと意見が出て、
おおむね賛同できるものではありますが、
そういう概念があることはやはり知っておいて損は無いと思います。

posted by shimana7 at 22:52| 研究 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年06月04日

複合影響から実フィールドでの影響評価へ


ここ数年(化学物質同士の)複合影響に興味をもって研究を進めてきましたが、
最近の興味はそこからさらに一歩進んだ
化学物質以外の影響を含むマルチストレス影響の評価です。

この辺の自分の興味の流れは
昨年農業環境技術研究所で行われた有機化学物質研究会でまとめたつもりです。

第15回有機化学物質研究会
農業環境をめぐる有機化学物質研究の昨日・今日・明日−化学物質と環境との調和を目指して−
http://www.niaes.affrc.go.jp/sinfo/sympo/h27/20151105.html?0924

ということで、このときの私の配付資料を公開しておきました。
http://shimana7.web.fc2.com/research/PDF/g3-23.pdf

実際の野外環境では必然的に多数の農薬に曝露を受けるので、
農薬の複合影響の評価法の研究をしてきたのですが、
室内試験に加えて、野外生物調査による検証がも必要となります。

野外だと化学物質以外の影響も大きいため、
これをどう評価するか、ということが次なる課題になります。
上記の資料にも多少は書きましたが、
日本語でまとまった資料というのはあまりなかったと思います。

我らが岩崎さんによる以下の総説も良くまとまっているよい参考文献だと思います。
岩崎 雄一 (2016)
生物群集の応答から金属の“安全”濃度を推定する:野外調査でできること
日本生態学会誌, 66(1), 81-90
http://doi.org/10.18960/seitai.66.1_81
posted by shimana7 at 23:06| 研究 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年04月19日

【論文公開】農薬の用途別使用量


新たに公開された論文の紹介です。

谷地俊二、永井孝志、稲生圭哉 (2016)
水田使用農薬の県別用途別使用量の簡便な推定方法の開発
日本農薬学会誌, 41(1) 1-10
http://pssj2.jp/journal/new/con-jj402.html
(WEBでは会員しかアクセスできません。冊子はすでに出版されています)

殺虫剤は様々な用途があり、大きく分ければ、
使用する場所で水田、畑、果樹、その他など4つに分かれます。
水田で使用する農薬に着目するとさらに、
本田湛水散布、本田茎葉散布、育苗箱施用、無人ヘリ散布など
数種類の使用方法があります。
使用方法によって面積当たりの使用量も違いますし、
使用した後の環境動態も異なるため、
当然そのリスクも異なります。

一方で、殺虫剤はその商品毎に
都道府県毎の出荷量が農薬要覧という資料に統計としてまとめられています。
ただし、1つの殺虫剤商品が複数の使用方法で使用できる場合、
出荷された商品がどこでどのような用途で使用されたかは統計がありません。

PRTR制度では指定された農薬(全部ではない)について、
田、果樹園、畑、家庭、ゴルフ場、森林、その他の非農耕地の
7種類に排出量(≒使用量≒出荷量)が割り振られています。
ただし、水田での用途別の使用量は分別できていませんし、
制度開始前(平成13年以前)まで溯ることはできません。
なによりも限られた農薬のみが対象である点が問題です。
(ネオニコチノイド系殺虫剤は一つも指定されていない!)

そこでこの研究では、殺虫剤14剤を対象に、
農薬要覧に記載された農薬種類別出荷数量を
簡便に用途別に分ける推定方法を開発しました。
この手法は簡便で客観性が高く、
用途毎・都道府県毎・年毎に網羅的に整理可能な方法であることが特徴です。

推定した殺虫剤の用途毎使用量を
PRTR制度によって同様に推定された田における排出量と比較したところ、
同程度の推定手法になっていることが確認されました。


私たちのグループではこの論文の手法を用いて
網羅的な農薬使用のデータベースを作成しています。
いつどこで何がどの用途でどれくらい使われたのかが
すぐに把握でき、それを用いたリスク評価が可能な体制を整えています。

ただし、問題はこれのアップデートです。
外部資金に依存したやり方では継続性に難があります。。。

posted by shimana7 at 22:54| 研究 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする