2016年12月31日

曝露関連論文2016


2016年も終わりになりました。
嬉しいことに今年は曝露関連の論文が結構多く出ました。
ここで一気に紹介したいと思います。

1.Yabuki Y, Nagai T, Inao K, Ono J, Aiko N, Ohtsuka N, Tanaka H, Tanimori S (2016)
Temperature dependence on the pesticide sampling rate of polar organic chemical integrative samplers (POCIS)
Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 80(10), 2069-2075
http://dx.doi.org/10.1080/09168451.2016.1191329

前回の記事(SETAC北米大会)
http://shimana7.seesaa.net/article/444264667.html
でもちょこっと紹介しましたが、
水中に農薬を吸着するサンプラー(パッシブサンプラー)を
一定期間沈めておいて、それを回収して分析する手法の報告です。

吸着速度は温度による影響が大きいので、
その温度による影響を調べて、
吸着量から農薬濃度を計算する際の温度の補正式を出しました。

農薬濃度は経時変化が激しいため、高頻度のサンプリングが必要となりますが、
パッシブサンプラーなら、沈めて置いた期間の平均濃度を
容易に知ることができます。

ただし、パッシブサンプリングは単なる簡易モニタリング手法ではありません。
パッシブサンプラーは基本的に
水中の生物が化学物質を取り込む様式を模倣したものなので、
むしろこちらで得られた結果こそが、
生物への曝露量を正確に表しているものと考えられます。

これまで私がやってきたのは
農薬のピーク濃度を曝露量とした用いた生態リスク評価ですが、
今後はこのようなパッシブサンプリングで測定できる
累積曝露量を用いた生態リスク評価に
取り組んでみたいと考えています。



2.谷地俊二、永井孝志、稲生圭哉 (2016)
水田使用農薬の県別用途別使用量の簡便な推定方法の開発
日本農薬学会誌, 41(1), 1-10

解説は以前に書きました:
http://shimana7.seesaa.net/article/436874563.html

現在はJ-Stageで公開されています!:
http://doi.org/10.1584/jpestics.W15-31

この論文が河川水中の農薬濃度の全国分布を予測する下記の4番の論文に続きます。



3.岩崎亘典、稲生圭哉、永井孝志 (2016)
河川上流側の水稲作付面積率の算定手法の開発−国土数値情報と農林水産統計情報に基づく解析−
GIS -理論と応用-, 24(1), 31-38

この論文も下記の4番の論文に続きます。
河川水中農薬濃度の予測には、
農薬の使用に関するデータと水稲作付面積や河川流量などの
環境要因のデータが必要となります。
この論文はそのうちの流域別水稲作付面積の推定手法に関する報告です。

国土数値情報には水田や畑地など土地利用に関するデータと、
流域界に関するデータがありますので、
それらのデータを用いると流域別の水田面積を推定できます。

ただし、実際に農薬が使用されるのは水田ではなく、
水稲が作付けされた土地になります。
土地利用区分における「水田」とは、
畦畔も含んでいたり、
麦など別の作物が作付けされている場合もあります。
水田面積から水稲作付面積に変換するために
別途農林水産統計のデータを用いています。

さらに、現在は河川の任意の地点を地図上で選択すると、
そこから上流の流域における水田面積を
自動で計算してくれるツールを開発しているところです。



4.谷地俊二、永井孝志、稲生圭哉 (2017)
全国350の流量観測地点を対象とした水田使用農薬の河川水中予測濃度の地域特異性の解析
日本農薬学会誌, in press

タイトルのとおり、全国350の流量観測地点を対象として、
水田使用農薬の河川水中予測濃度の地域特異性を解析したものです。
2番と3番の論文の情報と、流量観測地点の河川流量データから、
農薬の水中ピーク濃度を予測できます。
実測値による検証は最低限行っていますが、
まだ今後も積み重ねていく必要があります。



また、この曝露濃度のデータと各農薬の生態毒性データから、
生態リスクの全国分布を評価することができます。
ここまでくるには何段階もの研究の積み重ねが必要で、
一つずつ論文として出版することでオーソライズしながら
進めていく事が重要でした。

毒性の方も論文の積み重ねが順調に進んでいますので、
2017年はひとまずのリスク評価までの仕上げの年になりそうです。
posted by shimana7 at 23:07| 研究 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする