藻類の個体群動態モデルにトキシコキネティクスを導入したモデル
についての論文がHuman and Ecological Risk Assessment誌に受理されました。
Nagai Takashi (2013)
Algal population growth model integrated with toxicokinetics for ecogical risk assessment under time-varying pesticide exposure.
トキシコキネティクスを導入するというのは、
毒性が水中の濃度に依存するのではなく、
水中から体内に取り込まれ、体内にある農薬のターゲットサイトに運ばれ、
そこでの濃度に依存して毒性をもたらす、
というメカニズムをモデル化することです。
毒性の経時変化を予測する際に有効になります。
私は以前にアオコの研究をしていた際に
鉄の取り込み速度を考慮した藻類の個体群動態モデルを
作っていますので、それの毒性版ともいえます:
Nagai Takashi, Imai Akio, Matsushige Kazuo, Fukushima Takehiko (2007)
Growth characteristics and growth modeling of Microcystis aeruginosa and Planktothrix agardhii under iron limitation.
Limnology, 8(3), 261-270
河川水中の農薬の濃度は農薬使用の時期に依存して大きく変動するため、
そのような状況下での個体群の影響と
その後の回復性を予測できるモデルになっています。
生態リスクのエンドポイントとして、EC50がよく使われますが、
同じEC50に相当する曝露が、
農薬によって異なる個体群レベルの影響をもたらす
(回復できるかどうか、回復にどのくらい時間がかかるか)
ことを、シミュレーションによって示すことができました。
ところで、
今回のモデルはDEBコミュニティな人たちに散々叩かれまして、
自分としては少し不本意な形にモデルを修正せざるをえませんでした。
(結果としてはほとんど変わらないのですが)
私は既存の毒性試験の濃度反応関係をうまく使って
フィッティングで求めるパラメータ数をなるべく減らしたいのですが、
どうしてもモデルの全パラメータを同時にフィッティングで求めないと
この人たちにとっては「modeling practice」がダメなのだそうです。
このやり方は「modeling practice」としては美しいやり方ですが、
実用的にはいまいちなモデルになってしまうと思います。
(パラメータの持つ意味がわからなくなって、
メカニズムベースのモデルと呼べなくなってしまう)
化学物質の生態リスクの分野で個体群モデルが
なぜ実用化されないのかは、
個体群モデルな人たちの閉鎖性にあるのではないか
という気さえしてしまいました。
自分としては、もうこのテーマでの研究は方向性を変えて、
ハイスループットアッセイでモデルパラメータを効率よく決定できるような
そんな研究に今後はしていきたいと思っています。