Ecotoxicologyのマニアックな話です。
ドイツのLiessらが提唱するSPEAR対オランダのvan den Brinkが提唱するPRCの
論戦が面白いです。
以下一連の論文:
SPEARのメソコスム版を提案し、PRCよりも優れているという主張↓
Liess M, Beketov M (2011)
Traits and stress: keys to identify community effects of low levels of toxicants in test systems.
Ecotoxicology 20, 1328-1340
それに対して反対するコメント↓
van den Brink PJ, ter Braak CJF (2012)
Response to "traits and stress: keys to identify community effects of low levels of toxicants in test systems" by Liess and Beketov (2011).
Ecotoxicology 21, 297-299
そして、さらにそれに対する反論↓
Liess M, Beketov M (2012)
Rebuttal related to "Traits and Stress: Keys to identify community effects of low levels of toxicants in test systems" by Liess and Beketov (2011).
Ecotoxicology 21, 300-303
でもってこれらはすべてオープンアクセスです!
http://www.springerlink.com/content/0963-9292/?MUD=MP&k=beketov
SPEARについては以前に私のブログでも紹介したことがあります。
http://shimana7.seesaa.net/article/200882841.html
野外の底生生物群集の影響評価に使う指標のことです。
低濃度の農薬の影響を増幅して検出力を高めることができます。
この指標をメソコスムの解析に応用したのがLiess (2011)で、
PRCだと無影響となるところでもSPEARだと影響ありと出てきます。
特に長期間の影響を調べる際にはSPEARが有利だと述べています。
ちなみにPRCはPrincipal Response Curveのことで、
主成分分析などの序列化手法を応用した多変量解析で
生物群集組成の変化を解析する手法です。
メソコスム試験の解析法としては現時点で最も主流な方法で、
いまやこれを使わないと国際誌には論文が受理されません。
van den Brink (2012)では、
・PRCとSPEARの比較の仕方が間違っている
(リンゴとオレンジを比較するような、などと面白い表現もでてきます。。。)
・PRCはもっといろんな応用ができる
・PRCは完全に統計的な手法であり、SPEARのように事前情報(Traitのデータベース)を必要としない
・SPEARで使う事前情報にはこんなにいろんな欠点がある
よってLiess(2011)の結論には反対である
などの反論を展開しています。
さらにそれに対してLiess(2012)では
「van den Brinkの反論はSPAERの理解の欠如に起因する」などと改めて反論しています。
ただし、正面切っての反論というよりは、
「PRCだと無影響となるところでも、SPEARだと影響ありと出てくる」
というところを繰り返し強調して、
だからSPEARのほうが優れている、という論調になっています。
私自身も手持ちのデータで両方の解析を行って比較したことがあります。
SPEARは事前にデータベースを整備するところが大変で、
これさえできれば、計算自体は統計理論は全く必要なく非常に単純明快です。
PRCは統計家がたくさんいるオランダらしい高度に統計的な方法ですが、
Rのパッケージを使うと計算そのものは割と簡単にできてしまいます。
とりあえず両者の解析はそれなりに対応した結果が出ます。
結果的にはどっちが有利という結論は出なくて、
私ならコントロール下にある群集組成を解析するメソコスム試験ならPRC、
コントロール下に無い野外生物群集の解析ならSPEARを使うかな、
と思います。
もともとの手法開発の経緯がそのように対応していますので。