2012年06月12日

論文紹介


新しい論文の紹介です。

Nagai Takashi, Yokoyama Atsushi (2012)
Comparison of ecological risks of insecticides for nursery-box application using species sensitivity distribution
Journal of Pesticide Science, 37(3), in press
http://dx.doi.org/10.1584/jpestics.D11-047

水稲用殺虫剤の生態リスクを比較した論文です。

・代表的な有機リン系殺虫剤のフェニトロチオン
・ミツバチなどで話題のネオニコチノイド系殺虫剤のイミダクロプリド
・トンボなどで話題の殺虫剤フィプロニル
を使用した時の水田での生態リスクと河川での生態リスクを評価しました。

評価手法としておなじみの種の感受性分布(SSD)を使用しています。
現状農薬の生態リスク評価に使用されるコイ、ミジンコ、緑藻の3点セットの生物種に対しては
ネオニコチノイド系殺虫剤はほとんど毒性がないので
このような系統の物質を評価するにはSSDは非常に有用です。

同様の普及率で使用した場合、生態リスクは
フェニトロチオンよりもイミダクロプリドやフィプロニルのほうが低くなり、
これらの物質へ代替が進むことは結果的にリスクを下げることになる
と予測されました。


ただし、使用しているリスク指標(影響を受ける種の割合)が
本当に物質ごとに同じ意味を持つものなのかどうかは常に疑問を持たれるところです。

物質AにおけるSSDの10パーセンタイルと、
物質BにおけるSSDの10パーセンタイルは、
同じ影響とみなせるのか?
実際の生態系ではどのような現象として現れるのか?、
ということを、野外生物群集を用いたメソコスム試験との比較により検証を行っています。

結果としては、メソコスム試験でみられる影響の大きさと、
SSDから計算される影響の大きさは
3つの物質間で共通の関係が得られました。
つまり同じ指標で物質間のリスク比較が可能だということになります。
評価結果よりもむしろこの検証のほうが重要な結果だと私は考えています。


もう一つこの論文で提案したのは水田でのリスク管理水準についてです。
河川でのリスクについては5%が線引きのラインとされることが多いのですが、
水田ではもちろんこのような低いリスクレベルはクリアできません。
農地の系内(水田)は農業生産の場ですから
農地系外(河川)とは求められるリスクレベル(管理水準)は当然異なるはずです。

そこで私は、害虫防除と生態系保全の考え方を融合させた
IBM(Integrated Biodiversity Management)の概念を
さらにリスク学の考え方と融合させました。

IBMとはものすごく簡単に書くと、
害虫も益虫もただのの虫も
増えすぎて農業への経済的な被害を引き起こす閾値と
絶滅が懸念されるレベルの間で管理する
という考え方です。
無影響レベルで管理するという考え方とは異なります。
このような管理レベルに相当するリスクレベルはどの辺になるかを検討しています。
この考え方をIBMの提唱者の方に話したところ、
とても面白いと言ってもらえました。


まあ相変わらず日本では
「SSDって何?俺は知らん、俺が知らないものは認めない」
的な状況なので周回遅れ的な感は否めませんが、
「アカデミックな科学としての完成度」よりも
「どのような場面でなら使えるのか」
を丁寧に示していくより無いようです。


posted by shimana7 at 22:29| 研究 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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