しかも、この方法には大きな応用の可能性があります。DNA量に加えてRNA量を定量化することで、RNA/DNA比が生物の増殖率を示す良い指標になるからです。これは、DNA量は常に一定に近いのに対して、細胞分裂が活発なときにはRNAの合成量は大きく、そうでないときにはRNA合成量は小さく、また作られたRNAはすぐに分解されるからです。
生物の個体数の変動要因には外的要因(被食、沈降、移流など)と内的要因(栄養状態、日射、温度、化学物質によるストレス)があり、生態系を理解するうえではこれらを分けて知ることが重要になります。特に現在取り組んでいる化学物質の生態リスク評価では、このうち内的要因による増殖率(内的自然増殖率)が化学物質のストレスによりどれだけ減少するかを解析し、長期的な生物個体群の動態を予測します。ところが、野外の生物の内的自然増殖率を測定することは非常に困難でした。外的要因との区別をつけることが難しいからです。RNA/DNA比の利用は、1点のサンプルで増殖率がわかる(普通は増殖率を出すには2点必要)、外的要因によってRNA/DNA比は変化しない、熟練した技術が必要ない、というメリットがあります。
以前、野外におけるアオコの変動要因が何であるかを調べるためにこの方法を応用したのですが、その結果も早く論文にしなければいけません。