新しい論文がEnvironmental Toxicology and Chemistry誌に受理され、オンライン公開となりました。
Nagai T (2018) A novel, efficient, and ecologically relevant bioassay method using aquatic fungi and fungal‐like organism for fungicide ecological effect assessment. Environmental Toxicology and Chemistry, in press
https://doi.org/10.1002/etc.4138
この論文は、菌類(+菌類様微生物)を用いた新しい毒性試験法を開発したという内容です。
農薬は大きく分けると殺虫剤、殺菌剤、除草剤の3つに分かれます。殺虫剤は節足動物によく効く(=毒性が強い)ので、オオミジンコを用いて毒性を把握することができます(もちろん例外はあります)。除草剤は植物によく効くので、藻類を用いて毒性を把握することができます(同様に例外はあります)。
さて、殺菌剤は病原性の菌類を主なターゲットとするわけですから、ノンターゲット(病原性のない菌類)に対しても強い毒性を持つはずです。そして、菌類は生態系の中で分解者として、また寄生性を持つなどして生態系の中で重要な役割を果たすので、生態リスクを適切に評価すべきです。ところが、現在生態リスク評価で用いられる3点セット(魚類、オオミジンコ、緑藻)では、殺虫剤や除草剤の影響を把握することはできても、殺菌剤の影響を把握することは困難であることがわかります。
以上のようなモチベーションで研究を進めてきました。菌類のことなど全く分からなかったところから猛勉強しましたが、新しいことを勉強するのは楽しいものです。
生態学的に重要と思われる試験生物種5種を選定し、5種同時に試験できるようなハイスループット系の効率的な毒性試験法を開発しました。5種の毒性データが揃うと、種の感受性分布の解析ができます。
試験生物種は以下の5種です:
Rhizophydium brooksiaum(ツボカビの一種)
Chytriomyces hyalinus(ツボカビの一種)
Tetracladium setigerum(水生不完全菌とも呼ばれる子嚢菌の一種)
Sporobolomyces roseus(酵母、担子菌の一種)
Aphanomyces stellatus(卵菌類の一種、分類学的には菌類ではないが偽菌類と呼ばれ、菌類とよく似た性質を示す)
幅広い分類群から選定し、菌類の持つ生態系機能をカバーできるようにしたことが特徴です。これが論文のタイトルにもある「ecologically relevant」の意味となります。
試験方法は、藻類で実績のある96穴マイクロプレートを使う方法です。菌類のバイオマスはATP発光試薬を入れてATP発光として測定します。マイクロプレートリーダーで自動測定できるので大変効率的です。
実際にマラカイトグリーンという魚の水カビ病の治療薬(現在は食用魚には使われません)を用いて毒性試験を行ったところ、菌類以外の生物種に比べて、非常に毒性が強く検出されました。
今はこの開発した試験法を用いて各種殺菌剤の試験を進めてきたところです。こちらもなかなかおもしろい結果が出ていますが、それはまた今後報告させていただきます。