5月7-11日にベルギーのブリュッセルで行われた
SETACヨーロッパミーティングに参加してきました。
久しぶりのベルギーで心躍る出張でした。
2年ぶりのSETACヨーロッパですが、
今回も非常に勉強になることが多かったので
忙しい中でも行ってよかったです。
・水草関係
実は今年度から水草を研究対象に加えています。
今回は水草関連の情報収集がメインタスクでした。
Glyceriaというイネ科の水草の試験ガイドラインが開発中ということですが、
リングテストのばらつきが大きく、問題があるようです。
また、水草でSSD解析を行うために、多種の水草で試験を行うような系が構築されており、
マツモやハゴロモモ、スギナモなどが利用できそうでした。
・陸上植物
水草に加えて以外にも陸上植物の話題が非常に目立っていました。
OECD208を用いた毒性試験やメソコスムを用いた高次評価法の提案など、
バラエティに富んだものでした。
これまで全くノーマークだったので大変勉強になりました。
・金属関係
Bio-metというBiotic ligand model (BLM)の簡易ツールが更新されて
ver4.0になったらしいです。
新たに鉛の計算ができるようになりました。
http://bio-met.net/
鉛のBLMは完成段階で、full BLM補正とbio-met、PNEC-pro、DOC補正が比較され、
bio-metとPNEC-proの二つの簡易ツールは
そこそこ使える(Full BLMとほぼ同じ結果になる)ようです。
業界団体が中心となって
Metals in the environment
http://metalsintheenvironment.com/
というサイトが出来上がりました。
金属の生物利用性や複合毒性、モデルなど、様々な情報が掲載されているようです。
特にインフォグラフィック的なアニメーションの出来が良く、おススメです。
・殺菌剤の生態影響
殺菌剤は当然ながら水生菌類に高い毒性を持つはずですが、
このあたりの知見は驚くほど少ないです。
重要性は多くの人が認識していますが、
やはり評価が難しいというのが研究が停滞している理由かと思います。
そこで、個別の水生菌類種への影響よりも、
有機物分解や栄養塩循環など、生態系機能を評価軸としている研究がほとんどです。
今回の学会でも葉っぱの分解速度をエンドポイントにするなどの研究が多かったです。
ちなみに私のポスター発表は、
水生菌類の個別種を用いた毒性試験法の検討についてだったのです。
しかし、最終日でポスターセッションの時間がほとんどなく、
まだセッションの時間が終わってないのに、会場がどんどん片付けられていき、
あまり議論にならなかったのが残念なところです。
・SSD関連
STOWAというところからSSDを用いた
生態リスク計算ツールが出ているようです(オランダ語のみ、まだ試してない)。
http://www.stowa.nl/publicaties/publicaties/Ecologische_Sleutelfactor_Toxiciteit__Hoofdrapport__deelrapporten_en_rekentools_
ssdと複合影響モデルを組み合わせると、
累積リスク(複数物質によって影響を受ける種の割合)が計算できます。
これをかなり幅広に解析してみると、
Top1%の物質で99%の影響は説明できるということで、
検出される物質の数はリスクにはあまり関係がないということでした。
さらに、これらの地点で実際の生物調査も行っており、
影響が5%を超えると生物相に影響が出だすというデータが得られています。
5%以下にするための希釈率を計算すると、
これをFootprintとすることができ、一つの指標になるようです。
実際には多様な土地利用が混ざっていたほうが(日本型の土地利用?)
Footprintは少なくなるようでした。
・複合影響
「The sequence makes the poison(毒かどうかは順番が決める)」という
秀逸なタイトルの発表がありました。
パラケルススの「The dose makes the poison」へのオマージュ(?)で、
このセンスはとても好きです。
物質AとBを時間差で曝露させるのですが、
どちらを先に曝露させるかで影響の出方が大きく異なる、
という実験結果が出されていました。
まあ遅効性のものと即効性のものをうまく組み合わせれば、
そういう結果を生み出すことはできるかと思います。
・行動への影響
Viewpointという魚の稚魚の行動を録画して解析するツール:
http://www.viewpoint.fr/en/p/equipment/zebrabox
が面白いと思いました。
ほかにも類似のツールはいくつかありましたが、
ミジンコの遊泳阻害とか、通常の毒性試験も
画像解析とAIで自動でできるようになるような日も近いと感じました。
・曝露評価関係
水中濃度を予測するいわゆる曝露モデルは
もういろいろなものが出そろっていますが、
これを毒性試験を行うマイクロプレート中の被験物質濃度の経時変化を
予測するために適用した事例が面白かったです。
やりかたはごく普通の分解速度や吸着係数などのパラメータを使って計算するものですが、
このアイディアは思いつかなかったなあ、と感心しました。
・ゲント訪問
最後に以前在籍していたゲント大学を訪問しました。
同じ市内ですがラボを引っ越して、以前の古いラボから
とても新しくきれいなラボになっていました。
・感想
一度にこれだけ多くの見知らぬ情報が得られるというのは、
やはりSETACをおいてほかにはないと思います。
ただ、日本人の参加者は年を追うごとに少なくなってきているのが気になります。
このまま日本との差がどんどん開いていってしまうのでしょうかね。。。
写真は会場の入り口です。
入り口では手荷物検査をされ、
金属探知機によるチェックや服のポケットなどをチェックされたりしました。
テロが警戒されている区域なので、まあしょうがないでしょうが、
学会でのこのような経験はショッキングでした。
あと、今回の大会はアートとの融合がサブテーマとなっており、
美術系大学と連携し、
会場の様々な箇所にサイエンスや水生生物などをテーマとした
現代アート作品が展示されていました。
これもなかなか新鮮な経験でした。