2016年06月21日

【解説】ネオニコチノイド系農薬の規制強化について


現在、環境省では農薬の登録保留基準に対するパブコメの募集が出ています。

平成28年6月6日
「水産動植物の被害防止に係る農薬登録保留基準値(案)」に対する意見の募集(パブリックコメント)について
http://www.env.go.jp/press/102614.html

この中で、
「(参考2)水産動植物の被害防止に係る農薬登録保留基準として環境大臣の定める基準の設定に関する資料」
を見ると、11種類の農薬の基準値の根拠が示されています。

このうち、クロチアニジンとチアメトキサムという
二つのネオニコチノイド系農薬に注目です。

ネオニコチノイド系農薬の生態影響についての規制が今年度から強化され、
新ルール下での初の基準値設定がこの二つになるのです。


まずはこの規制強化の流れをおさらいしてみます。


これまでの制度では、
魚類(コイ)、甲殻類(オオミジンコ)、藻類(Pseudokirchneriella subcapitata)の
3種の生物の急性毒性試験の結果(LC50やEC50)を、
種間の感受性差の不確実係数(魚類と甲殻類は10、藻類は1)
で割った最小値が基準値となっていました。
ところが、このやり方ではネオニコチノイド系農薬など、
これら3種の生物に毒性の低い(そして他の種に対してはより高い毒性が出る)
農薬の基準値が大変緩くなってしまうという問題がありました。

より細かいデータなどは以下の論文に示してあります:
永井孝志 (2016) 種の感受性分布を用いた68種の水稲用農薬の生態影響評価
Journal of Pesticide Science, 41(1), 6-14.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpestics/41/1/41_D15-056/_article

この論文の中で、
登録保留基準基準値と種の感受性分布から求めたHC5値(=予測無影響濃度に相当する値)を比較したところ、
ネオニコチノイド系、フェニルピラゾール系、スピノサドというグループにおいて、
現行の登録保留基準の制度が種の感受性分布を用いる方法に比べて、
10倍以上影響を過小評価していることが明らかになりました。

そして、
平成28年3月3日に開催された中央環境審議会 土壌農薬部会農薬小委員会(第50回)
http://www.env.go.jp/council/10dojo/y104-55b.html
においてこの問題が議論され、

「資料4 環境大臣が定める水産動植物の被害防止に係る農薬登録保留基準の設定における種の感受性差の取扱いについて(案)」
http://www.env.go.jp/council/10dojo/y104-55/siryou4.pdf
の中にこの対応が示されています。

結論として
----
@ 今後我が国において新たに登録を受けようとする殺虫剤、及び
A 既に登録されているニコチン性アセチルコリン受容体又はGABA 受容体に作
用する殺虫剤(ネライストキシン系殺虫剤を除く。)
について、水産基準値設定における審査においては、オオミジンコに加えて、農薬取締
法テストガイドラインに定められたユスリカ幼虫を用いた試験(急性遊泳阻害試験。以
下「ユスリカ試験」という。)成績の提出を求めることとする。
----
となりました。
これまでの3点セットの生物種に加えてユスリカの試験が必要になるように
制度が変わりました。
脱3点セットのはじめの一歩です。

このAについては、作用機作で記載されていますが、
要するにネオニコチノイド系、フェニルピラゾール系、スピノサドの
グループを意味します。
これらの農薬は、すでに基準値が設定済みのものであっても
新たにユスリカのデータを加えて再設定されることになりました。


さて、ここまでが長い前置きです。
この制度の変更、つまりユスリカ試験の追加が
基準値の設定にどれほど重要かを見ていきます。


一番初めのパブコメの基準値設定資料を見てみると、
クロチアニジンの毒性データは以下の通り(9ページ目):
----
魚類[@](コイ急性毒性) 96hLC50 > 98,700 μg/L
魚類[A](ブルーギル急性毒性) 96hLC50 > 117,000 μg/L
魚類[B](ニジマス急性毒性) 96hLC50 > 100,000 μg/L
甲殻類等[@](オオミジンコ急性遊泳阻害) 48hEC50 = 38,000 μg/L
甲殻類等[A](ユスリカ幼虫急性遊泳阻害) 48hEC50 = 28 μg/L
藻類[@](ムレミカヅキモ生長阻害) 72hErC50 > 264,000 μg/L
藻類[A](イカダモ生長阻害) 72hErC50 > 259,000 μg/L
----
ユスリカ以外の種にはほとんど毒性が出ないことがわかります。
結果として、ユスリカのEC50値28を不確実係数10で割った2.8μg/Lが
基準値(案)となりました。

もしもユスリカのデータが無ければ、
オオミジンコのEC50値38000を10で割った3800μg/Lが基準値となるところで、
1000倍以上も緩くなってしまいます。


次はチアメトキサムの毒性データを見てみると(32ページ目):
----
魚類[@](コイ急性毒性) 96hLC50 > 118,000 μg/L
魚類[A](ブルーギル急性毒性) 96hLC50 > 114,000 μg/L
魚類[B](ニジマス急性毒性) 96hLC50 > 98,600 μg/L
甲殻類等[@](オオミジンコ急性遊泳阻害) 48hEC50 > 98,600 μg/L
甲殻類等[A](ユスリカ幼虫急性遊泳阻害) 48hEC50 = 35 μg/L
藻類[@](ムレミカズキモ生長阻害) 72hErC50 > 89,300 μg/L
----
同様に、ユスリカ以外の種にはほとんど毒性が出ません。
結果として、ユスリカのEC50値35を不確実係数10で割った3.5μg/Lが
基準値(案)となりました。

もしもユスリカのデータが無ければ、
オオミジンコのEC50値>98600を10で割った9800μg/Lが基準値となるところで、
やはり1000倍以上緩くなります。


今年度からの新制度がいかに大きな変更であるかが
おわかり頂けるのではないかと思います。

ネオニコチノイド系農薬は欧米で規制強化、
日本でのみ規制緩和などと言っている方が結構いますがこれはウソです。
そのような事を言う人は勉強していない人なので、
信用しないようにしてください。
  


posted by shimana7 at 22:24| リスク | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年06月04日

複合影響から実フィールドでの影響評価へ


ここ数年(化学物質同士の)複合影響に興味をもって研究を進めてきましたが、
最近の興味はそこからさらに一歩進んだ
化学物質以外の影響を含むマルチストレス影響の評価です。

この辺の自分の興味の流れは
昨年農業環境技術研究所で行われた有機化学物質研究会でまとめたつもりです。

第15回有機化学物質研究会
農業環境をめぐる有機化学物質研究の昨日・今日・明日−化学物質と環境との調和を目指して−
http://www.niaes.affrc.go.jp/sinfo/sympo/h27/20151105.html?0924

ということで、このときの私の配付資料を公開しておきました。
http://shimana7.web.fc2.com/research/PDF/g3-23.pdf

実際の野外環境では必然的に多数の農薬に曝露を受けるので、
農薬の複合影響の評価法の研究をしてきたのですが、
室内試験に加えて、野外生物調査による検証がも必要となります。

野外だと化学物質以外の影響も大きいため、
これをどう評価するか、ということが次なる課題になります。
上記の資料にも多少は書きましたが、
日本語でまとまった資料というのはあまりなかったと思います。

我らが岩崎さんによる以下の総説も良くまとまっているよい参考文献だと思います。
岩崎 雄一 (2016)
生物群集の応答から金属の“安全”濃度を推定する:野外調査でできること
日本生態学会誌, 66(1), 81-90
http://doi.org/10.18960/seitai.66.1_81
posted by shimana7 at 23:06| 研究 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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