2016年01月10日

新規論文の公開

新しい論文がWEBで早期公開されたのでお知らせします。

Nagai Takashi (2016)
Ecological effect assessment by species sensitivity distribution for 68 pesticides used in Japanese paddy fields
Journal of Pesticide Science
Article ID: D15-056
http://doi.org/10.1584/jpestics.D15-056

日本の水田で主に使用されている68種の農薬について、
種の感受性分布の解析を行った結果をまとめたものです。

論文の重要なポイントは二つあります。
分布の傾きや、感受性の生物種のランキングは
農薬の作用機作によって強く特徴付けられるという点が一つ目。

現行の水産動植物の被害防止に係わる農薬登録保留基準と
種の感受性分布から導かれる予測無影響濃度(HC5)を比較すると、
特定の作用機作の農薬について、
現行の基準値が大きく生態影響を過小評価していることが明らかとなった、
という点が二つ目です。

細かな点では、
現行の基準値ちょうどの濃度であった場合に
影響を受ける種の割合がどれくらいになるかを計算すると、
0.1%以下の農薬から、98.3%の農薬までの幅があったという点も面白い結果です。
つまり、基準値はなんらかの一定の影響レベルを示しているわけでは無い、
ということになります。
(もちろんゼロリスクを意味していない!)

もっと面白いのは、そのような幅がある中で、
68農薬の基準値が示す影響レベルの中央値がちょうど5%になるということです。
(これが面白いと思う人は相当なマニアだと思いますが。。。)

種の感受性分布を使って、HC5を予測無影響濃度とする場合に
「5%の種に影響が出ることを容認するなどというのは認められない」
などと言っている人は、
この結果を見たら一体何と言うのでしょうか?
posted by shimana7 at 00:59| 研究 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

WET試験活用のパブコメ


WET試験の活用についてのパブコメが出ていました。

生物応答を利用した排水管理手法の活用について
平成27年11月
生物応答を利用した水環境管理手法に関する検討会
https://www.env.go.jp/press/101686.html

魚類ではゼブラフィッシュ、
甲殻類ではニセネコゼミジンコ
藻類ではPseudokirchneriella subcapitata
を使うのですが、藻類種の理由として書いてあったことが
おもしろかったのでメモ。

Pseudokirchneriella subcapitataは国内に生息しない種なので、
これを国内の生態影響評価に使うことには以前からいろいろと
議論があったのです。
公的文書の中でこういう言い訳のような記述は実は初めて見たのでした。
よく考えたもんだなあと感心しました。


以下引用
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16p
@藻類生長阻害試験
藻類の試験では、単細胞緑藻類のムレミカヅキモ( Pseudokirchneriella
subcapitata)が、化学物質審査規制法による試験法の推奨種とされ、OECD テストガ
イドラインなどの既存試験法で最も広く用いられていることから、排水の試験生物種
とすることが推奨される。
ムレミカヅキモは昭和59(1984)年6月に採択されたOECD テストガイドライン201
藻類生長阻害試験では、Selenastrum capricornutum とされていたが、形態的特徴か
ら、P. subcapitata が正しい種名とされ、平成18(2006)年に改訂されたOECD テスト
ガイドライン201 では、P. subcapitata に変更され、現在に至っている。P.
subcapitata は国内生息種ではないが、我が国には、当初推奨種とされていたS.
capricornutum の同属種であるS. bibraianum ( Synonyms: Ankistrodesmus
bibraianus)等が生息しており、水生生物の保全の観点からの環境基準の検討に際し
ても、ムレミカヅキモの試験結果も参照されていることから、本手法の試験生物種と
することが推奨される。
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posted by shimana7 at 00:43| 研究 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする