2020年04月05日

ウェブサイトリニューアルのお知らせ

2020年4月より研究に復帰しました。
あわせてウェブサイトをリニューアルしたのでお知らせします。
新しいウェブサイトは以下です:
永井孝志のWebsite

ブログもリニューアルして情報発信も再開します:
リスクと共により良く生きるための基礎知識

このブログは過去ログとして当面の間残しておきます。


posted by shimana7 at 11:20| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年04月02日

更新停止のお知らせ

2018年4月より、農研機構・農業環境変動研究センター・企画連携室・企画チーム長を拝命し、研究所の管理部門の業務に従事することになりました。

研究は一旦セミリタイヤ状態になりますので、新たな仕事の依頼は引き受けられません(どうしても、というのはご相談下さい)。

それに伴い、このブログの更新はほぼ停止状態になるかと思います。

そもそもこの数年間は多忙を極めて情報発信的なことはほとんどできない状態になっていました。

ブログなどはリニューアルして情報発信を強化することを考えていました。そのためには今の仕事のやり方は根本的に見直す必要があり、今年度からまさにそれを実行しようと思っていた矢先の異動となりました。

研究の仕事に復帰した際には再チャレンジしようと考えており、それまではこのブログは一応このままにしておきます。
posted by shimana7 at 21:23| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年03月27日

菌類試験法論文公開


新しい論文がEnvironmental Toxicology and Chemistry誌に受理され、オンライン公開となりました。

Nagai T (2018) A novel, efficient, and ecologically relevant bioassay method using aquatic fungi and fungal‐like organism for fungicide ecological effect assessment. Environmental Toxicology and Chemistry, in press
https://doi.org/10.1002/etc.4138

この論文は、菌類(+菌類様微生物)を用いた新しい毒性試験法を開発したという内容です。

農薬は大きく分けると殺虫剤、殺菌剤、除草剤の3つに分かれます。殺虫剤は節足動物によく効く(=毒性が強い)ので、オオミジンコを用いて毒性を把握することができます(もちろん例外はあります)。除草剤は植物によく効くので、藻類を用いて毒性を把握することができます(同様に例外はあります)。

さて、殺菌剤は病原性の菌類を主なターゲットとするわけですから、ノンターゲット(病原性のない菌類)に対しても強い毒性を持つはずです。そして、菌類は生態系の中で分解者として、また寄生性を持つなどして生態系の中で重要な役割を果たすので、生態リスクを適切に評価すべきです。ところが、現在生態リスク評価で用いられる3点セット(魚類、オオミジンコ、緑藻)では、殺虫剤や除草剤の影響を把握することはできても、殺菌剤の影響を把握することは困難であることがわかります。

以上のようなモチベーションで研究を進めてきました。菌類のことなど全く分からなかったところから猛勉強しましたが、新しいことを勉強するのは楽しいものです。

生態学的に重要と思われる試験生物種5種を選定し、5種同時に試験できるようなハイスループット系の効率的な毒性試験法を開発しました。5種の毒性データが揃うと、種の感受性分布の解析ができます。

試験生物種は以下の5種です:
Rhizophydium brooksiaum(ツボカビの一種)
Chytriomyces hyalinus(ツボカビの一種)
Tetracladium setigerum(水生不完全菌とも呼ばれる子嚢菌の一種)
Sporobolomyces roseus(酵母、担子菌の一種)
Aphanomyces stellatus(卵菌類の一種、分類学的には菌類ではないが偽菌類と呼ばれ、菌類とよく似た性質を示す)

幅広い分類群から選定し、菌類の持つ生態系機能をカバーできるようにしたことが特徴です。これが論文のタイトルにもある「ecologically relevant」の意味となります。

試験方法は、藻類で実績のある96穴マイクロプレートを使う方法です。菌類のバイオマスはATP発光試薬を入れてATP発光として測定します。マイクロプレートリーダーで自動測定できるので大変効率的です。

実際にマラカイトグリーンという魚の水カビ病の治療薬(現在は食用魚には使われません)を用いて毒性試験を行ったところ、菌類以外の生物種に比べて、非常に毒性が強く検出されました。

今はこの開発した試験法を用いて各種殺菌剤の試験を進めてきたところです。こちらもなかなかおもしろい結果が出ていますが、それはまた今後報告させていただきます。

posted by shimana7 at 22:44| 研究 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年03月13日

複数農薬の累積的生態リスク評価ツール NIAES-CERAP


新しいリスク評価ツールが公開されました

複数農薬の累積的生態リスク評価ツール NIAES-CERAP
http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/pub2016_or_later/laboratory/niaes/manual/079666.html

概要の部分を以下に引用します:
-----
これまでに、種の感受性分布の概念を用いて農薬の生態リスクを定量的に評価する手法を開発し、簡便な評価ツールを公開してきました(技術マニュアル:農薬の生態リスク評価のための種の感受性分布解析)。
ただし、このツールは個別の農薬のリスク評価にしか対応していませんでした。個別の農薬のリスクが低いと判定された場合であっても、実際の環境中では数十もの多種類の農薬が同時に検出されるため、複数の農薬の複合影響を考慮して累積的な生態リスクを評価することが必要となります。
そこで、既存の複合影響予測モデルを組み合わせて多数の農薬の複合影響を評価できる NIAES-CERAP (Cumulative Ecological Risk Assessment of Pesticides) を新たに開発しました。モニタリングなどによって得られた複数の農薬の環境中濃度を入力すると、評価結果が表示される簡便なツールとなっています。
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これまでにSSDを用いた生態リスク評価手法の開発を続けてきましたが、今度はSSDと既存の複合影響予測モデルを組み合わせて、多数の農薬の曝露下での累積リスクを計算できるように改良を行ったものです。

元となる論文は以下のものです:
Nagai T (2017)
Predicting herbicide mixture effects on multiple algal species using mixture toxicity models
Environmental Toxicology and Chemistry, 36(10), 2624-2630
http://dx.doi.org/10.1002/etc.3800

除草剤-藻類を対象に、5種類の除草剤を混合して5種類の藻類に曝露させ、その応答を影響を受ける種の割合で表現しました(5種の藻類のうち、1種が影響を受けたら20%とするなど)。

これとは別に、それぞれ5種類の除草剤の単独のSSDと複合影響予測モデルを組み合わせて、影響を受ける種の割合を予測します。

この両者を比較したところ、作用機作が同じ除草剤を混合した場合は濃度加算モデル(CA)、作用機作が異なる除草剤を混合した場合は独立影響モデル(IA)がより良い予測結果を示していました。

この結果は、既存の複合影響モデルが単独の生物の影響のみではなくSSDのような多種系にも適用可能であることを示しています。

私自身はこのような計算をRを使ってやっていますが、これをエクセルに濃度を入力するだけで計算できるようなツールを作りました。農薬の濃度モニタリングを行っている方にはぜひとも使っていただきたいツールとなっています。

posted by shimana7 at 22:55| 研究 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年11月06日

日本リスク研究学会第30回大会@滋賀大学に参加しました


日本リスク研究学会第30回大会@滋賀大学に参加しました。
http://www.sra-japan.jp/SRAJ2017HP/indexjp.htm

私はこの大会で
「リスクが高いのはどっち? 〜リスク比較のからくりを探る〜」
という企画セッションを開催しました。


わかりやすいリスク比較として、
「○○と△△でリスクが高いのはどっち?」と示す手法があります。
今回は以下の3つのリスク対決を用意しました:
・やせ vs. 肥満の総死亡リスク
・野球 vs. サッカー:スポーツをめぐるリスク
・乗り物対決 〜移動にかかわるリスクの比較〜
いずれも「身近なリスク」に分類されるものです。
(リスク学会ではここ3年くらい身近なリスクに関連する企画をやっています。)
こういうバラバラな分野のリスク比較事例を
共通した切り口で見ることができるのがリスク学会の一番の面白さだと思います。

ところがこのようなわかりやすいリスク比較のなかにもさまざまなからくりが含まれています。

リスクを確率として計算する際に分母や分子に何をもってくるか、
数字の解釈の仕方等、
見方を変えることでリスクが逆転することさえありえます。
そこで、リスク同士を様々な見方から対決させて、
リスク比較の解釈の仕方を議論することを目的としました。

例えば、やせvs肥満では、
ちょいポチャのほうが死亡率が低い、という疫学データが最近よく示されています。
肥満は健康に悪いということがさんざん言われてきた中でのパラドックスだと言われてます。
これがバイアスの影響なのかどうか、ということをいろいろ場合分けしながら見ていくと、
また違った側面が見えてきます。

野球vsサッカー(スポーツのリスク)では、
プレイ中の死亡や負傷のみに注目しがちですが、
スコープを広げるともっと多面的な要素を持っています。
例えば運動による健康へのプラスの影響
プロ選手の引退後の寿命への影響、
プレイヤーのみならず観客としてのリスク
(ファウルボールでの負傷、興奮しすぎて突然死、優勝したとき道頓堀に、、、など)

乗り物対決では、
自発的移動手段としてのリスクと、社会の凶器としてのリスクの区分
リスクの指標の問題
(年間死亡率か、移動距離ごとの死亡率か、移動時間ごとか、移動回数ごとか、など)
の要素があります。

このように、共通の切り口で全く異なる分野のリスク比較を事例ベースで検討した結果、
リスク比較に共通するからくりを洗い出すことができたかと思います。

これがさらに進むとリスク比較のガイドライン化?までできるかもしれません。

posted by shimana7 at 21:53| リスク | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年07月27日

契約研究員の募集


一緒に働いていただける方を募集中です。
修士または博士が対象です。
農薬が水草に与える影響を評価します。

契約研究員の募集【生態リスク】

勤務条件、仕事内容などの問い合わせは私でも大丈夫です。
なお、プロジェクトは少なくとも3年は続く見込みです。

ぜひともよろしくお願いします。
posted by shimana7 at 08:01| 研究 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年07月02日

スルホキサフロルの新基準値案

平成29年6月19日 環境省 報道発表資料
「水産動植物の被害防止に係る農薬登録保留基準値(案)」に対する意見の募集(パブリックコメント)について
http://www.env.go.jp/press/104178.html
にあるように、農薬の基準値案について7月18日までパブコメが実施されています。

上記WEBサイトの
(参考2)水産動植物の被害防止に係る農薬登録保留基準として環境大臣の定める基準の設定に関する資料
に、各基準値案の根拠が掲載されています。


注目すべきはスルホキサフロルという新しい殺虫剤の基準値です。
ネオニコチノイド系農薬とは構造が異なりますが、
作用特性が近いことが知られており、
ポストネオニコに位置づけられるものです。

この殺虫剤はすでに基準値が設定されており、
環境省 水産動植物の被害防止に係る農薬登録保留基準について
http://www.env.go.jp/water/sui-kaitei/kijun.html#list03-sa
にリストされている通り、
平成26年4月7日に39,000μg/Lと設定されています。

今回はこの剤について新しいルールによって基準値が再設定されました。
昨年度から始まったこの新ルールについては以前解説したものがあります:
http://shimana7.seesaa.net/article/439257715.html


さて、スルホキサフロルの毒性データ(参考2 22ページ目)を見てみると
----
魚類[@](コイ急性毒性) 96hLC50 > 402,000 μg/L
魚類[A](ニジマス急性毒性) 96hLC50 > 387,000 μg/L
魚類[B](ブルーギル急性毒性) 96hLC50 > 360,000 μg/L

甲殻類等[@](オオミジンコ急性遊泳阻害) 48hEC50 > 399,000 μg/L
甲殻類等[A](ユスリカ幼虫急性遊泳阻害) 48hEC50 = 309 μg/L

藻類[@](ムレミカヅキモ生長阻害) 72hErC50 > 101,000 μg/L
----
となっており、ネオニコと同様、ユスリカ以外にはほとんど毒性を示しません。

そして、追加で提出されたユスリカのデータに基づき
最も低い毒性値である309を不確実係数10で割ると30.9となり、
数字を丸めて基準値案は30μg/Lとなりました。
ユスリカのデータを加えたことで、
以前の基準値と比べて1000倍以上厳しい値になりました。

このようにネオニコチノイド系農薬や類似の作用の農薬について、
新しいルールに基づく基準値の再設定が今後続くことになります。

posted by shimana7 at 22:45| リスク | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年06月04日

「○○で何人死亡」と言いたい場合のエビデンスレベルの明示の方法


国立がん研究センターなどによる研究:
たばこ対策の健康影響および経済影響の包括的評価に関する研究
http://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIDD00.do?resrchNum=201508017A
において、疫学調査などから推定された受動喫煙にによる年間死者数は
15000人(肺がん2,480人、虚血性心疾患4,460人、脳卒中8,010人)と報告されています。
たばこ=肺がんだと思っていたらそうでもないんですよね。
10万人あたりに直すと12人/年となります。
リスクファクターとしては大変大きなものと言えるでしょう。


計算方法の事例は、NATROMさんによる記事:
受動喫煙による死亡者数はどうやって計算しているのか
http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20170517
の中にとても明快に書かれています。

ツイッターなどでこれについての議論が多く行われており、
リスク学以外の分野からみた議論を興味深く見させていただきました。
一番びっくりしたのが、
受動喫煙の疫学調査はいわゆるコホート研究であって、ランダム化比較試験(RCT)ではない
(両者の違いは例えばこことかを見てください:
http://screamtheyellow.hatenablog.com/entry/2014/12/13/010753
ので、健康増進法等の規制を強化するにはエビデンスのレベルがまだ低い、
などの意見でした。

化学物質のリスクを扱う分野からするとこれで文句がつくとは
思わずひっくり返る思いがします。
人体実験が不可能の化学物質のリスク分野ではRCTは基本的にあり得ないので、
コホート研究のまともなのが一つでもあれば万々歳な世界です。
例えば農薬の有害性評価は基本的に動物実験からの外挿です。
そのため外挿における不確実性を考慮して
とりあえず100で割っておこうという「作法」が生まれてきました。
疫学研究があっても、直線閾値なしモデルによって低用量外挿をしたりします。
こういう世界と比べると受動喫煙のエビデンスなどは十分に高いレベルにあると思います。


以下の記事は受動喫煙のエビデンスレベルに関する話で、とても良記事だと思います。

科学者はどのように「不完全なエビデンス」を国民に伝えるべきか?
https://healthpolicyhealthecon.com/2017/05/28/imperfect-evidence/

受動喫煙防止法について論点整理@:受動喫煙による健康リスク・死亡者数の推定はどのくらい信用できるか?
http://krsk-phs.hatenablog.com/entry/secondhand_smoke_1


特に二番目の記事ではエビデンスレベルと不確実性の明示について書かれています。
リスク学の分野でも不確実性の明示の話は日常的に議論されています。

ちょうど昨年度のリスク学会でも、
「○○で何人死亡」と言いたい場合のエビデンスレベルの明示の方法の話を取り上げました。
http://www.sra-japan.jp/SRAJ2016HP/kikaku_session-3.htm

特に注意すべきなのは、リスク比較の文脈で、
エビデンスレベルの異なるリスクの数字を比較する際には
きちんとそのエビデンスレベルの明示が必要である、ということです。
例えば、交通事故死者数は統計情報があるのに対し、
上記の受動喫煙は疫学調査からの推定値ですので、そのエビデンスレベルは違います。
以下は昨年度のリスク学会で提案したカテゴリ分けの案です。
IARCによる発がん性の分類(1とか2Aとか)に類似の概念です。

-----
エビデンスの種類によってカテゴリを3つ(細かく分けると4つ)に分ける。
カテゴリ1は実際の統計データに基づいているので最も信頼性が高い。
ただし、単年度では件数が少ない(10人以下)、
あるいは年変動が大きく、数年分のデータで平均をとる必要がある場合もある。
そこで、単年度の実際の死者数の統計データを使用した場合にカテゴリ1A、
数年分のデータをプールして使用した場合をカテゴリ1Bとする。

カテゴリ2は信頼できる疫学調査から計算したリスクで、
カテゴリ1の次に信頼性がある。
例えば、たばこ、アルコール、肥満、食塩などは十分な数の疫学データがあり、
現状の一般人に有意なリスクが検出されているものである。

ただし、放射線などは疫学データが十分あるが、
現状の一般人に有意なリスクが検出されているものではなく、
低用量の影響を外挿(直線外挿)により補間したものとなる。
これはさら信頼度が落ちるため、カテゴリ3とする。
また、ヒトのデータが無く動物実験からの種間外挿もカテゴリ3とする。
-----

こんなようなカテゴリ分けの明示をリスク比較では活用してもらいたいです。
交通事故はカテゴリ1A、受動喫煙はカテゴリ2になります。


ただし、交通事故なら交通事故死の定義(事故発生から24時間以内に死亡した人)があり、
それを変えると年間死者数も変わってくるため、
カテゴリ1といえども絶対的な数字ではないことに注意が必要です。

さらなる問題は「分母を何にするか」ということです。
例えば入浴中の溺死(カテゴリ1A)は、
全人口を分母にしてもかなりリスクが高いのですが、
高齢者に限定すればさらにリスクは大きく上昇します。

交通事故も乗用車とバイクで分ければリスクが異なります。

すなわち、どのようなフレームで評価するかによってリスクは大きく変化します。
そして、フレームの設定はリスクを比較する目的に依存します。
また、一つのリスクを複数のフレームから評価することは、
データの見方やリスク情報の受け止め方(リスクリテラシー)
を養うのにも有効かもしれません。

posted by shimana7 at 00:02| リスク | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年05月27日

SETACヨーロッパ大会に参加しました


5月7-11日にベルギーのブリュッセルで行われた
SETACヨーロッパミーティングに参加してきました。
久しぶりのベルギーで心躍る出張でした。

2年ぶりのSETACヨーロッパですが、
今回も非常に勉強になることが多かったので
忙しい中でも行ってよかったです。



・水草関係
実は今年度から水草を研究対象に加えています。
今回は水草関連の情報収集がメインタスクでした。

Glyceriaというイネ科の水草の試験ガイドラインが開発中ということですが、
リングテストのばらつきが大きく、問題があるようです。

また、水草でSSD解析を行うために、多種の水草で試験を行うような系が構築されており、
マツモやハゴロモモ、スギナモなどが利用できそうでした。


・陸上植物
水草に加えて以外にも陸上植物の話題が非常に目立っていました。
OECD208を用いた毒性試験やメソコスムを用いた高次評価法の提案など、
バラエティに富んだものでした。
これまで全くノーマークだったので大変勉強になりました。


・金属関係
Bio-metというBiotic ligand model (BLM)の簡易ツールが更新されて
ver4.0になったらしいです。
新たに鉛の計算ができるようになりました。
http://bio-met.net/

鉛のBLMは完成段階で、full BLM補正とbio-met、PNEC-pro、DOC補正が比較され、
bio-metとPNEC-proの二つの簡易ツールは
そこそこ使える(Full BLMとほぼ同じ結果になる)ようです。

業界団体が中心となって
Metals in the environment
http://metalsintheenvironment.com/
というサイトが出来上がりました。
金属の生物利用性や複合毒性、モデルなど、様々な情報が掲載されているようです。
特にインフォグラフィック的なアニメーションの出来が良く、おススメです。


・殺菌剤の生態影響
殺菌剤は当然ながら水生菌類に高い毒性を持つはずですが、
このあたりの知見は驚くほど少ないです。
重要性は多くの人が認識していますが、
やはり評価が難しいというのが研究が停滞している理由かと思います。
そこで、個別の水生菌類種への影響よりも、
有機物分解や栄養塩循環など、生態系機能を評価軸としている研究がほとんどです。
今回の学会でも葉っぱの分解速度をエンドポイントにするなどの研究が多かったです。

ちなみに私のポスター発表は、
水生菌類の個別種を用いた毒性試験法の検討についてだったのです。
しかし、最終日でポスターセッションの時間がほとんどなく、
まだセッションの時間が終わってないのに、会場がどんどん片付けられていき、
あまり議論にならなかったのが残念なところです。


・SSD関連
STOWAというところからSSDを用いた
生態リスク計算ツールが出ているようです(オランダ語のみ、まだ試してない)。
http://www.stowa.nl/publicaties/publicaties/Ecologische_Sleutelfactor_Toxiciteit__Hoofdrapport__deelrapporten_en_rekentools_

ssdと複合影響モデルを組み合わせると、
累積リスク(複数物質によって影響を受ける種の割合)が計算できます。
これをかなり幅広に解析してみると、
Top1%の物質で99%の影響は説明できるということで、
検出される物質の数はリスクにはあまり関係がないということでした。
さらに、これらの地点で実際の生物調査も行っており、
影響が5%を超えると生物相に影響が出だすというデータが得られています。
5%以下にするための希釈率を計算すると、
これをFootprintとすることができ、一つの指標になるようです。
実際には多様な土地利用が混ざっていたほうが(日本型の土地利用?)
Footprintは少なくなるようでした。


・複合影響
「The sequence makes the poison(毒かどうかは順番が決める)」という
秀逸なタイトルの発表がありました。
パラケルススの「The dose makes the poison」へのオマージュ(?)で、
このセンスはとても好きです。
物質AとBを時間差で曝露させるのですが、
どちらを先に曝露させるかで影響の出方が大きく異なる、
という実験結果が出されていました。
まあ遅効性のものと即効性のものをうまく組み合わせれば、
そういう結果を生み出すことはできるかと思います。


・行動への影響
Viewpointという魚の稚魚の行動を録画して解析するツール:
http://www.viewpoint.fr/en/p/equipment/zebrabox
が面白いと思いました。
ほかにも類似のツールはいくつかありましたが、
ミジンコの遊泳阻害とか、通常の毒性試験も
画像解析とAIで自動でできるようになるような日も近いと感じました。


・曝露評価関係
水中濃度を予測するいわゆる曝露モデルは
もういろいろなものが出そろっていますが、
これを毒性試験を行うマイクロプレート中の被験物質濃度の経時変化を
予測するために適用した事例が面白かったです。
やりかたはごく普通の分解速度や吸着係数などのパラメータを使って計算するものですが、
このアイディアは思いつかなかったなあ、と感心しました。


・ゲント訪問
最後に以前在籍していたゲント大学を訪問しました。
同じ市内ですがラボを引っ越して、以前の古いラボから
とても新しくきれいなラボになっていました。


・感想
一度にこれだけ多くの見知らぬ情報が得られるというのは、
やはりSETACをおいてほかにはないと思います。
ただ、日本人の参加者は年を追うごとに少なくなってきているのが気になります。
このまま日本との差がどんどん開いていってしまうのでしょうかね。。。

IMG_5051.JPG
写真は会場の入り口です。
入り口では手荷物検査をされ、
金属探知機によるチェックや服のポケットなどをチェックされたりしました。
テロが警戒されている区域なので、まあしょうがないでしょうが、
学会でのこのような経験はショッキングでした。

あと、今回の大会はアートとの融合がサブテーマとなっており、
美術系大学と連携し、
会場の様々な箇所にサイエンスや水生生物などをテーマとした
現代アート作品が展示されていました。
これもなかなか新鮮な経験でした。

posted by shimana7 at 23:12| 研究 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年03月02日

募集

4月以降一緒に働いて頂ける方を募集しています。
農業環境変動センター 契約職員(補助員(研究助手))の募集について:
http://www.naro.affrc.go.jp/acquisition/2017/02/074024.html

主に農薬分析の仕事になります。
私のところに連絡頂いても質問には答えられます。

よろしくお願いします。
posted by shimana7 at 22:23| 研究 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする